私が彼のことを知ったのは、彼と撮るという仕事の依頼が来た時だった。
正直に言うと、前々から名前だけは知っていた。が、名前だけは知っている、という程度である。
彼の出演した映画だって一つもわからない。そう正直にマネージャーさんに言うと、彼女は笑って「それは当たり前よ。名前みたいな子にはまだ早いわ」と言った。
その意味がわからなくて首をかしげていると、部屋に社長が入って、また笑って言った。

「今回君と撮るのは、雲雀恭弥くんだ…名前くらいは知っているだろう?彼は有名だからなぁ…」
「はい…でも、名前しか知らないんです。その人、どんな映画に出てるんですか?」
「簡単に言えば、成人指定の危ない映画だよ。こないだは、実の妹を愛して監禁する話に出てたかな…いやあ、私も見させてもらったが、あの演技は迫力モノだったね」
「そ、そんな役を…」
「ああ。特に凄かったのは、やっぱりラストだね。結局彼は妹を殺してその血肉を全て食べつくすんだが…あの狂気の表情は忘れられないよ。いや、君も一度見てみるといい。彼の本気の演技は、見るものを圧倒するよ」

…正直、そんな怖い映画、見たくなかった。
でも、どうしてだろう。帰りに、貸りていたCDを返しにレンタルショップに行って、そのついでのはずだった。
興味本位で、ちょっと見てみるだけだった。
それなのに、いつの間にか社長の言っていた映画を貸りてしまっていて…今、自宅のTVで釘付けになって見ている。
怖い、怖い、でも、止められない。
冒頭部分の優しげな彼から一気に180度転回し、狂気を露にするシーン。妹を殴りつけて犯す場面や、無邪気に笑う表情、アンバランスなそれらに魅了されて、ついにクライマックスまでたどり着く。
犯しながら愛用していたナイフを振り上げ、達すると同時にそれを振り下ろす。真っ赤な血飛沫があがって、彼の顔や身体を濡らしていく。
全身を赤に染め上げながら、それでも彼は笑っていた。ぞっとするほど美しく、恍惚的な表情で。
思わず鳥肌の立つような、圧巻されるその表情。演技だとわかっていても、本当に怖かった。

社長の言った通り、彼は最後妹を切り刻んでそれらを咀嚼し、全て食べてしまった。そして、自らも命を絶ってしまう。兄妹の幸せだった頃のシーンをエピローグに、その映画は終わった。
画面が真っ暗になったのを確認し、ベッドに寝転がる。
明日…あんな人と一緒に撮影するのか。
そう思うと、不安で堪らない。
怖いなどという陳腐な感情ではない。私は、彼の才能に、魅了されていたのだ。
雲雀恭弥というその孤高の天才に、早く会いたい…。
そう思いながら、私は眠りについていた。


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