十年後雲雀と逃亡劇



生きるべきか死ぬべきか。そんなことは定かではない。ただ死を待つだけの日々にそんな、生なんて幻想はとっくの昔に捨てたのだ。後悔しているわけでもないし、同情される覚えもない。何も知らない人間に、「辛かったね」などと言われても何の感慨も浮かばない。どうしたって、何か足りずに生まれてきたのだろうか、もしくはなくしたとしか思えないほどに、何も思えないのだ。檻の中で過ごす日々に生きる日々に生きる気力なんか湧かないのだから。そんな毎日を送っていた時、その男はやってきた。やたらと整った容姿に不釣合い過ぎる囚人服と、口元に浮かぶ残忍な笑み。手首に枷は頑丈であるはずなのに、どこか頼りなさげに見えて、何とも変わった人間だとしみじみと思った。

その次の日、彼は私に話しかけてきた。
「君、名前は?」
「…え?」
「名前。どうしてこんなとこにいるの?」
…変な男。どうしてこんなとこにいるの、なんて決まりきっているというのに。
「…人を殺したから」
「奇遇だね、僕もだよ」
そう言って、また艶やかに笑った。怖い人…目は笑っていない。

「誰を殺したの?」
「家族」
「何人?」
「皆…血の繋がっている人を、思いつく限り」
「どうしてそんなことしたの?」
「煩わしかったから。私を縛るの、閉じ込めるの。紅い目は不吉なんだって。私は忌み子だから、外に出してもらえなかったの。ずっとずっと独りだったの。だから…」
「自分で、外に出たの?」
「うん。そしたら、また閉じ込められちゃった」
「哀しいね」
そう言うけれど、お兄さんの表情に変化はない。こんなに人と話したのは初めてだった。もっともっと話してみたくて、今度は自分から話しかけてみた。

「…お兄さんは?」
「僕?」
「うん。どうしてこんなとこにいるの?」
「僕はね、戦闘狂なんだよ」
「戦闘狂って?」
「戦いたくて戦いたくて堪らない、人を殺したくて殺したくて堪らないんだ。だから戦う、だから殺す。だから捕まる」
「大変だね」
「まぁね、でももう慣れた」
「前も捕まったの?」
「うん。前も捕まって、逃げた。今回も逃げるよ、そしてまた戦う、また殺す」
「逃げるの?」
「うん。一緒にくる?」

本当に、変な人。逃げるだって?そんな絵空事!ああ、馬鹿みたいだ。それでも…そんな彼の手をとった私も、相当の馬鹿なんだろうね。




死刑囚
 (さぁ、逃亡劇を始めよう!)

なんて素敵なバッドエンド!

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -