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カシャリ




馬鹿でかいシャッターを切る音と同時にうっすらと目を開けてみると、目の前で今時珍しい手を加えていない黒髪が揺れた。そこから視線を上に上げていくと、まっさらな肌を大きく露出させたキャミソールに、短いパンツといった、朝からセックスアピールの激しい格好をしているのはどうも頂けない。まだこの季節そんな薄着では寒いだろうに。ゆっくりと手を伸ばして、まだ寝ぼけ半分の頭で携帯を探ると時間を確認する。‥今日は朝食が食えそうだ。キッチンから漂ってくる味噌汁の香りに空っぽの胃袋が反応した。



「朝ご飯出来てる」
「‥ああ」
「味噌汁にネギ入れる?」


「‥ん」


布団に顔を埋めて頷くと、軽快な返事のあとにスリッパの音が遠ざかっていくのを感じる。それから漸く、動く気になった体を起こして伸びをすると、ぱきぱきと背骨が軋んだ。‥随分と体なまってるな、俺。
合わないのだろうか、そろそろ買い換えようか未だに悩んでいる寝心地のあまり芳しくない枕を普段の位置に戻して寝室を出た。











「葛西さん、帰り何時くらい?」


「‥そうさなァ、今日は9時位には帰れるか‥」

「わたしね、特集任されたから今月、少し遅いかも」


申し訳なさそうに眉を下げるななしに曖昧な笑みを返す。家にななしが居ないことを想像して少しばかり、落胆したからだ。‥こう見えて立派なブンヤの卵である彼女は、就職した出版社の新人の中でも群を抜いて才能を発揮していた。誰よりも、とある分野に関しては特に――洞察力に長け、彼女の写真と名前入りの記事はその業界では特別視されているらしい。


「‥で、タイトルは?」

「仮だけどね‥『放火現場の全て、手口にせまる!』‥で、いこうかと」
「火火火、怖ェなあ」


「嘘ばっかり」



膨れ面になりながらも案外満更でもない、複雑な表情を浮かべる。
――彼女の専門分野というのは放火現場の手口の推理から、どこの角度から撮れば美しく炎が撮れるかなど、口を開けばまあ兎に角、並みの人間が聞けば目眩がするようなことばかり。だが俺はこの写真に、記事の切り口に惚れ込み、ある日の現場でななしに近づいた。‥初めてだったのだ、こんなに自分が作った炎を美しく一枚の紙に納めることが出来るやつに出会ったのは。


「さァて、そろそろ行くとしますか」



朝食を終え、手早く支度をしたななしはおれよりも後に出勤する。おれを見送るためだと。何とまあ、女の鏡だと茶化すと真っ赤になってジャケットを投げてきた。
ここに越してきて、2ヶ月経つというのに、そう、まだ2ヶ月だ。一緒に住もうと言って、このマンションを借りてから俺たちは驚くほど同棲生活に順応していた。締めてくれと玄関先で渡したネクタイを片手に、背の小さなななしが目の前で背伸びをして、きつくない程度に締めてくれる。



「お互い忙しい限りだなァ」


面倒そうにごちるのを忘れずに、磨かれたぴかぴかの革靴に足を入れる。


「景気がいいんじゃない?最近新聞売れてるし」
「馬鹿言え、不景気でパチンコまで玉の出が悪い」
「それは葛西さんの裁量でしょ」


襟元を整えられ手を離せば、どちらからともなく唇に触れる。相変わらず中毒的で、熱くて、おかしくなりそうだ。それこそ、一度点いた篝火はけして消えぬことと同じように。ななしが俺の腕に手をかけて体を支えながらゆっくり離せば、彼女のくせだ、キスをした後は必ず俺の頭のやけどに触れた。


「‥そうだ。朝撮った写真は消してくれ」

「葛西さんが放火の手口教えてくれるなら、写真は消すし‥おまけにわたしのこと好きにしていいのになー」




‥出来るかそんな事。いや、数多いうちの一つくらいなら、と思った自分が限りなく情けない。



「‥‥、行ってきます」
「ふふ!行ってらっしゃーい」









世界一気の抜けない付き合いだよ、本当に。


20110527

九万打企画
みつきさまに捧げます