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部屋で仕事をしていると、ばさばさ、と梟の羽音が聞こえてきた。


「ああ、来た来た」



窓を開けてやり、長旅を労うために水と餌を用意してやるとくわえてきた手紙を私の手の中に納めてから夢中でそれを食べ出す。赤い蝋で蓋をされた手紙を開くと、自然に笑みがこぼれた。目の前に、久々に見た恋人が立っているからだろう。



『‥きちんと映ってるといいけどねえ、手とか足とかある?』


「少し色が薄いかな」



最近発売した、紙が媒体になり、本人が投影され少しの間会話が出来るというものだ。手紙よりも遠くにいる彼女が身近に感じる。


『リーマス、もう仕事には慣れた?』


「ああ。うん、凄く楽しいよ。‥セブルスは相変わらずだけど」



あのしかめ面を想像したのか、彼女はくすりと笑う。本当は笑い事じゃない位なかなか疎まれているんだけれど――どうも私の言葉は聞いてくれない、とこぼすと、学生時代を思い出したのか懐かしそうな目をしている。



『‥それでもわたしが作った薬は、きちんと調合してくれてるのかねえ』


「心配ないよ、明日からまた飲まないと」



近くのゴブレットを傾ける。あまり気持ちをそそらない色をしたそれをみせると、苦笑した。




『私、ホグワーツに行きたいなあ』


「君には大事な事があるじゃないか、大丈夫、風邪を引かないようにして、暖かくするんだよ」


『リーマスもね』


「ああ、ホグワーツと言えば‥最近臨時で天文学の先生が来ててね、

なまえ・みょうじって言う、セブルスの元教え子なんだ」




『‥。あら臨時なんて珍しい』




天文学、というキーワードに反応したのか、機嫌のいい表情を露骨に見せた。おそらくあの研究室のことを思っているのだろう。
僕にあの薬を提供するために籠もっていた、あの懐かしい空間を。




「明日、その子のローブを選ぶんだ。彼女、マグルの街で暮らしていたからね、ローブが無いらしくて」



『ああその子のね、きちんと選んであげて、何ならわたしが行きたいなあ、外に出たいし』




お腹をさすりながらちらりとこちらに視線を向ける。



「君は、入院中だろう!」


『冗談冗談、あ、時間ぎれ』



「あ!‥、」




彼女が紙の中に吸い込まれたかと思えば、吼えメールのようにびりびりに破かれて自然とゴミ箱に捨てられた。彼女の筆跡が見たくて、紙片を拾い上げたけれどそれは真っ白だった。ああ、そうか、これには何も書かれていないんだっけ。




「ルピナス、――君の主人に宜しく」




代わりに返事の手紙を簡単に書いて梟に持たせると、灰色の大きな目をこちらに動かしてから空に飛び出した。


20110326