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午後は防衛術の手伝いに行くことになっている。昼ご飯は自室で軽く済ませようと廊下を歩いていると、後ろから人影が近づいてきて、わたしの肩を軽く叩いた。


「みょうじ先生、さっき、格好良かったです」


先ほどの眼鏡の少年だ。あの様子から察するに相当スネイプ先生に嫌われているのだろう。――可哀相に。同じグリフィンドール生として、少し同情した。


「いいよ、実は一回文句言ってみたかったから、スネイプ先生嫌いじゃないけど」


「え‥?」


「元生徒だったの。スネイプ先生が初めて教授になった年から。えーと、」


「僕、ハリー・ポッターです」


「ウン‥、よろしく。じゃあわたしは此処で。また午後ね」


ハリーに別れを告げると自室に入った。トランクから栄養剤を取り出して飲み干す。余り昼に食事をとる習慣が無いからだった。研究所は暇なときはお腹はすかないし、忙しいと食べる暇もない。しかし此処に来てから三日経つけれど――、甘いもの以外の食べ物は量が多く感じていた。仕方なく暇つぶしに日刊予言者新聞を見ることにする、前にも思ったけれど、やはり世の中にの関心を引くものはとても少なかった。ただ最近よく名前のでるアズカバンから脱獄したシリウス・ブラックだけは、ダイアゴンや、ホグワーツ内で手配書を嫌というほど見ていたからだ。それでも、自分に害がなければ人というのは至って無関心だったりする。――逆にかくまうことだって有り得るのだから。
暖炉に新聞を放り込んでから、自室を出た。








「さあ皆、教科書を鞄にしまって。こっちだ――、なまえは列の一番後ろが遅れないように着いて」



教室を出て向かった先は、あまり入ったことがない職員室だ。奥にぽつんと洋箪笥が置かれていた。がたがたと気味悪く揺れている。



「今日はまね妖怪ボガートに対抗する、簡単な呪文を君たちに教えよう。――リディクラス、ばかばかしい!」



リーマス先生が大きな声で言うと、周りも続けて唱えた。すると先ほどスネイプ先生の授業で大変な目に遭っていた体格のいい男の子――ネビル、というらしい。先生に耳打ちされている。怖いものはスネイプ先生、ということにわたしも何となく同意してしまった。ネビルは箪笥から物々しく出てくるスネイプ先生に呪文を唱える。

うわ、せ‥先生がスカート‥



「どうかな、なまえ。君もやってみる?」



笑いをこらえながら次々に変身するボガートを見ていると、不意にリーマス先生が話しかけてきた。



「いいです。何か、怖そうですし」



嫌みなくやんわりと断ると、先生は穏やかな笑みを浮かべた。



「あれ、次は‥‥」



いよいよあのハリーの番だ。‥彼もまたスネイプ先生か、若しくは違うものか。その様子をじっと見つめていたそのとき。リーマス先生が大きな声を上げてハリーとボガートの間に割り込むと、――ぼんやりとした、月が――現れた。



「――今日はこれで終わりにしよう。皆、レポートを月曜日に提出してくれ、‥なまえ、片付けを手伝ってくれるね」


「あ‥はい」


生徒たちを全員外に出した後、端に寄せた古びた机や椅子をリーマス先生と片付ける。ボガートの入った箪笥は未だにがたがたと震えていた。



「リーマス先生は、月が怖いんですか」



動きが一瞬止まった。



「‥他の先生方には言ってある、――僕は、‥人狼だからね、嫌なんだ、あれが」



先生は早口で言い切ると、はあ、と小さな溜め息を漏らす。


「僕をどう思う?」


歌うような口調でわたしに問うた。




「わたしは嘘は吐きません、嘘は嫌いです」


「――そう」


「リーマス先生、あなたのこと全然怖くありません。ちっとも。良い先生です、性格は最高ランク間違いなし、自信もって下さいよう」



ポケットから取り出したのは、最近また改良されたとある薬の入った試験管だ。見覚えがあることだろう。


「なまえ、それは――」


「ア、お疲れ様でした。薬きちんと飲みましょう」



驚いて目を見開くリーマス先生をよそに、仕上げとばかりにカーテンを整えてから職員室を出た。

20110312