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太ったレディの元にシリウス・ブラックが現れたという。
なにやら、部屋の外で騒ぎになっているのが気になって出て見れば、そういったことだった。ダンブルドア校長から召集があったのはこれからすぐのことで。机に広げたスネイプ先生から渡された生徒のレポートを一つに纏めてから、大広間に向かうとすでに大勢の生徒と、わたし以外の教授が集まって居た。

「全員そろったかの、‥先生方には今から各自城内の見回りをお願いしたい。担当科目の教室は勿論、廊下や空き教室も隈無くじゃ。‥頼みましたぞ」

見回り。
‥もしまかり間違ってわたしが探した場所でシリウス・ブラックが潜んでいたらこれはまた頼りない。‥いや、そんな偶然或る訳ないか。第一もう城内にはいない可能性の方が大きいのだから。
それよりも、深刻なのは此処へ来る際に見たレディのいたキャンパスだ。あれは酷かった。横に三本、大きな引っかき傷。どうやら気性が激しいらしい。

(‥どうしてグリフィンドール寮なんかに)

やはり先生方の思うとおり、シリウス・ブラックはハリー・ポッターを狙っているのだろうか。


「この非常時に随分と締まりの無い間抜けた顔をしておりますぞ、ミスみょうじ」


ああいけない。
考え事をすると周りが見えなくなるのは悪い癖だ。

「えっ‥アァ、すみません、考え事を」

そんなわたしの緊張感のない発言を聞いて、呆れたと言わんばかりの表情を浮かべながら、スネイプ先生は重々しく口を開いた。

「‥、お前は此方の情報には疎いだろう。言っておくが、シリウス・ブラックは動物もどきだ」
「はァ‥動物もどき、ですか」
「奴は黒い犬になる。人の姿をしていないからと、油断をしないことだ」


人間でいるとも限らないとは。また厄介な。
真っ暗な廊下をスネイプ先生と進むのに、二人で杖の明かりをともしていた。私の光は些か安定せず弱々しいものだ。まだ慣れていないせいだろう。しかし無いよりはましだ。廊下の突き当たりに差し掛かったところで、スネイプ先生はきっかり止まる。


「みょうじは天文台を」
「ハイ」
「‥何か有れば、直ぐに知らせること」
「ハイ」
「‥、」
「ア‥まだなにか‥?」



「いや、‥‥お前の灯りは不安定だ。廊下はランプを点けていけ」

「わかりました」


目も合わせずに足早に地下牢に降りていく先生の背中を見送りきってから、わたしも天文台へ向かうことにした。
‥それにしても、あの煮え切らないような、なにか言いたいことを喉までせり上がらせているのに、わたしの顔をみるなり止めてしまうのはどうしてなのだろうか。用件はランプじゃ無かっただろう。さっきのことがあったからなのだろうか。




カシャン




「‥‥あ」

不意にポケットから出した手に絡まって落ちたのは、薬だ。今日の分の、忘れないように入れておいたのに。石畳には液体が広がるのみで、今更これが戻るわけでもなく。見回りが終わってから片付けることにしよう。



**



天文台は静寂に包まれていた。
今の時期はあまり明るい星が見えないから冬と比べてみれば華やかではないけれど、ペガスス座とアンドロメダ座が確認できて面白い。


「ルーモス」


ランプを消して杖で灯りを灯すと、ここは殊更に淋しくなった。
辺り一体を確認しながら部屋の奥にまで進んでいくが、結局どこも変わりなく、拍子抜けしてしまう。詰まった息を吐き出し肩を回すと緊張がほぐれたせいか、お腹が鳴ってしまって、思わず驚いた。最近お腹がすくなんていう感覚をすっかり忘れていたからだ。確か部屋におやつの糖蜜パイの残りがあったはず。見回も終わらせたことだし、昼間のぎくしゃくした雰囲気を解くためにもスネイプ先生をお茶にでも誘ってみようか。
そう考えながら出入り口の扉を開けたとき。

(そうだ、あの部屋は)

ふと思い出したのだ。
掃除中に見つけたあの隠し部屋の扉を徐にさわると、ぎい、と古臭く軋んだ。
中に入れば相変わらず埃ぽく、すべて煤けている。ただひとつ、違っているのは。






「‥扉を閉めろ」


見知らぬ男が私にナイフを向けていること。

20120512