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ホグズミードの朝。
今日は普段とは違い朝食へ行かなくても誰も怒らない。少し遅めに起きる休日は研究室にいた頃からは考えられない位穏やかで、落ち着いた。
アンティークの時計を見ると、リーマス先生との約束までまだ一時間あった。準備は20分もあれば出来るから、とも思ったけれど、あの手紙のお礼をスネイプ先生に言わないといけない。硬い体を起こして、軽く伸びをすると貧血でふらふらと目の前が眩んで、真っ暗な視界の中、手のひらが木目の机に触れた。1ヶ月の月の満ち欠けが焼き印されている、お気に入りだ。

(――そろそろ満月だ)



モスグリーンの上着のポケットには、試験管に入った薬が波立っていた。











「スネイプ先生ぇ、スネイプ先生ぇ」



地下牢教室までたどり着くと古びた扉を二、三度叩く。なんだか学生時代に戻ったようだった。入れ、という低い声と共に扉が荒っぽく開く。



「ア、魔法は便利ですね、やっぱり」

「‥早く入れ、部屋が冷える」



不機嫌な声だけれど、しかしこれがスネイプ先生の平生であることは昔から知っていた。このまま出かける積もりだったので持っていたハンドバッグと外套を脇に置いて座ると、それを見た先生は訝しく眉間を潜めた。




「これ、ありがとうございました」



それを気にせず徐にあのカードを出してみせる。



「――呪文も漸く形にはなった様ですな」

「おかげさまで、食生活まで心配して頂くなんて、面目ないです」




「薬も、今日からの筈だが。飲んでいるでしょうな?」



スネイプ先生は鍋の中身を丁寧に確認し、刻んだ材料を入れていた。




「ええまあ、あれは厄介ですから。これ専門の権威にですね、特別に調合したものを頂いてます」



先生はわたしの言葉に更に眉間の皺を深めた鍋に蓋をすると、此方方に来て近くの席に座った。
あの鍋の中身はトリカブト系の強力な毒性のある脱狼薬だ。魔法薬学が苦手な私にも分かる。特有の匂いが部屋に充満していたからだ、勿論万人にはけして感じることの出来ないこの特徴的な香りが、むせかえるような強いものに感じた。



「―‥外出を止める権利は我輩にはない」

一度躊躇ったようだけれど、何かに推されたかのように、ぽつりと言葉を漏らす。



「それは、そうでしょうに」

「だが今外出をすることは得策ではないことは確かだと、言っておこう。

それが例え、ホグワーツの教員とであっても」



わたしとリーマス先生がダイアゴンへいく仮話を覚えていたらしい。流れるように目の前に用意された紅茶に頭を下げると、角砂糖を2つほど入れて口を付ける。あ、わたしの好きなオレンジペコだ。
――私が心配ですか?
そう言いたくなってしまう位、今日のスネイプ先生は何だか必死に見えた。きっとこのまま私を止め続けるだろうとも思う。



「何を、心配しているんです」


「奴は人狼だ」



不意に予想外の言葉が出てきた。



「アア‥、そんなこと」


「そんな事ではない、第一君の症状は特異なものだ、ルーピンは違う」



一層強まった眼光が、ひどくつらい。いや、分かってはいた。人の印象というのは塗り替えがたいものだということを。




「否、同じですよ。‥もう行きますよう」



「――みょうじ、!」



「‥スネイプ先生だって、――私のことがお嫌いなんでしょう」




手荷物を持ち、ひんやりとした金属質のノブに触れる。一瞬、何か言いたそうな顔をした先生が見えて、逃げるように扉を閉めた。

20110330