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ダイゴさんとレイトショー



ななしちゃんと一緒に映画に行けることになった、レイトショーで。

まあ本当はお兄さんに腹を立てたななしちゃんが仕返しのような、やけっぱちのようなものでここに至ったのだけれど。それでもと仕事を終わらせてていたら、ミクリが病人でもみる目つきで僕を見ていたことは、あまり気にしないことにする。


「何見ようか?」
「うーん‥うち、映画はよう分からへんなあ」
「一番最新のあれとか」
「ラブロマンス‥」


ラブロマンスといえば、ななしちゃんは浮ついた話が全然出て来ないことが定評だ。
何故かって、見るところ恋愛に興味がないから。80パーセントが舞妓稼業、20パーセント‥割合が異なるかもしれないが、そこにはマツバが占めていて僕やあの下っぱくんが入る隙は多分無いのは分かる。しかし、いくら家族といえどここまで互いを思う兄妹だなんているのだろうか。僕は一人っこだからか、想像も出来ない。


「そうどすな。‥うち、チケット買うてきます。ダイゴはんは飲み物を」
「いや、一緒に行こう」
「でも」
「いいんだ、折角二人で来れたんだから、ね?」


普段ならこのあたりで某マツバ君が乱入してくる筈だが、来ないところを見ると今日は本当にななしちゃんだけらしい。よし、それなら好き勝手やらないと損だろう。
悪戯ぽく差し出された手を取ると、行列の最後尾に並ぶ。端から見れば、恋人同士かなにかに見えているのだろうか。(この手は意図して出されたものでないことくらいは分かるけど。)頭一つか二つ弱小さなななしちゃんを見ると、さっき配っていたパンフレットのようなチラシを一生懸命読んでいる。本当にマイペースだ。媚びないし、いや相手にされないというか‥何というか。


「チケット二つ、頼んます」
「あ、今日はカップル割引が使えますよ」
「‥ふうん、ならお願」


「ダイゴはん嘘はだめです。友人どすから割引ちゃいますえ」



‥そして正義感が強い。
心なしか店員さんが哀れんでいる気がする。別に割引が効かないからじゃない。割引なんかどうでもいい。問題なのはばっさり友人だと言い切られた僕だ。




力の入らない手で何とかカップをもって館内に入った。中ではさすがにカップルがそこらそこらに座っている。‥いちゃいちゃしやがって。目に付いた空いている席に座ると、ホルダーに飲み物を置いた。


「あんまり映画は見ない方?」
「あい、‥映画見てると、眠くなってしまうんどす」
「いいよ、眠くなったら僕にもたれて」
「だ、大丈夫おす!最後まで見ますえ」


そうか、‥興味の無いものに連れて来てしまったか。何だか自信が無くなってくる。ここに来たのもやっぱり僕に興味なんてなくて、ただマツバ君の友人だから、だろうか。
暗くなる場内に、少しだけぴくりと体を動かしたななしちゃんに、始まるんだよと教えると、暗闇でもわかるくらいににっこり笑うのが見えて、もやもやしたものが少し楽になった。







‥本編が始まって20分余りが経つ。
おかしい。これ、ラブロマンスだろうに。



――ギャアアアアア!!!!


どうしてカップルが出て来ないんだ、いやそれよりなぜ悲鳴。


「‥(びくっ)」
「(あ、また跳ねた)‥ななしちゃん、さっき買ったチケット見せて」
「‥う、うん‥」

「(やっぱり)」

「‥どうか、しはりました?」
「出ようか、‥店員さんが勘違いしたみたいだ。映画のチケットが間違ってる」
「‥へえ?」


「これ、ホラー映」



――うわああああああ!



「(ひっ!!)」
「‥」


突然の音にしがみついてきたななしちゃん。
あ、胸当たってる。‥‥。こんなに近いなんて今までに無かったな。まあそれでも。怖がりな子を無理矢理居させ続けるなんて出来るはずもなく。


「立てる?」
「う‥うん」


足が震えている。
マツバ君といえばイタコが周りにいるくらいだ、当然ななしちゃんも怖くはないだろうと思っていたのだが。とんだ検討違いだ。


「っ?!」


座っているななしちゃんの腕を強引に自分の首にかけて、体を抱き上げた。‥うん、想定内の重さだ。舞妓は体が貧相だと着物が様にならないし。



「あ、あの!」

「しっ、映画見てる人もいるから、静かに出よう。何なら僕が塞いであげようか?」

「――!!」
「そうそう」


足元を確認しながら出て行く僕を、何人かの客が物珍しそうな目で見つめていた。









「‥なんか、悪いことしちゃったね」


マツバ君の家の前に車を停めて、エンジンを落とす。
本当なら、ななしちゃんを楽しませたくて誘ったというのに。これが切欠で映画を嫌いになったと思えば、トラウマを製造した最悪なデートになってしまうだろう。



「ごめんね」
「だっ‥ダイゴさんが悪いんじゃない!」
「でも‥」

「楽しかった!話も出来たし、新鮮で!わたしはまた一緒に行きたいけど‥嫌、ですか?」


「まさか!‥そうだね、絶対行こう」
「ええ!じゃあ、また明日。‥おやすみなさい」


「おやすみ」



玄関に自動的にランプが点って、ななしが家の中に入るのを見てからエンジンをかける。

――楽しかった、か。

不意にあの暗闇で見た笑顔を思い出して、顔が、あつくなった。



(やっぱり標準語が一番いいな、壁がないみたいで)

20110616