稽古の終わりに、昔馴染みのハヤトが来ました。
「ななし、調子はどう?」
「ハヤト!お久しゅうおすなあ」
「最近忙しくて、なかなかジムを空けられなくてさ。あれ、今日はマツバさん居ないのか?」
「‥へえ、協会からこってり絞られたんどす」
「ああ‥有り得る」
げんなりとしたハヤトはんを見ると、これは相当協会の方に迷惑がかかっていたんだと分かった。‥マツバにいは私のことになると目先が見えなくなるのだ。最近随分頻繁にかぶれんじょうを出入りしていたからだろう、これは、暫く来られなさそうだ。
「はいこれ、きんつば」
「わあ!おおきに!あ、もうお終いにしますさかい、少し待っとくれやす」
振りの位置などが記された紙をひとつに纏めて手提げを持つと、名前の書かれた札を裏返してハヤトと表へ出た。今日はこのまま御夕飯でもご馳走してあげよう、折角来てくれたんだから。
「なんか慣れないな、その口調」
「‥かぶれんじょうでは絶対に普段はだせないよ」
「でも甘いものが好きな所とか、変わらない」
私と同い年のハヤトはマツバにいと同じくジムリーダーとして一目置かれた存在だ。しかし昔から変わらず、こうしてかぶれんじょうへ来てくれる。稽古が嫌で嫌で仕方ないときは鳥ポケモンで連れ出してくれて、よくマツバにいに怒られたっけ。
‥主にハヤトが。
「ハヤトも全然変わらないよ!」
「なっ‥俺は少し変わった!」
「変わってない」
「変わった!だって俺はっ、――」
「‥‥ハヤト?」
「――変わってないよな?ハヤト」
ぞくり、と悪寒。
二人して一瞬動きが止まってしまったほどだ。恐る恐る振り向いてみると、にこにこ笑ってはいるものの、後ろには阿修羅やら阿吽像やらが見える。こわい。
「ななしの付き添いありがとう」
「ねえマツバにい!今日四人で鍋食べに行こう?」
「ああ。そうだ非常に嬉し‥いや残念だけど、ミナキは実家に送還されたから、三人だね」
「ほら、いいって」
「‥‥ハヤトももう酒が飲める年になったよな、確か」
「あ‥まあ」
「なら僕と語ろうか。‥今後について」
この後マツバにいはハヤトを離しませんでした。
20110513