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「君、釦掛け違えてる」
着慣れない礼服の釦を掛け違えた。
襟がみっともないのに気が付いた鹿雄先生は、私の顎をくいと右の人差し指で上げたかと思うと首元の釦を一つ、二つ、三つと外した。どうやら掛け直してくれるらしい。小さく、見えづらいそれへ目を細めた。指先が私の首へ滑る。
「先生、先生のお師匠はんはどんな人でしたか」
ぷちん、と釦が一つかかった。
「煙草──赤ラークが好きやった」
「俺が名頃会を作るときも、黙って見送ってくれた」
釦がまた一つかかった。
「関根くん──あれは引き抜きやな……。俺がこっちへ引きこんでも、何も云わへんかった。優しい人。我儘を赦してくれる人」
「関根さんを……」
先生は最後の釦だけを残して、私の頬に触れる。何度か指の腹で眦をなぞってくれるとすうと息を吸う音がした。黒い瞳が、私を捉えもしなかった。先生はどこか、違う場所を見ていた。
「鹿雄先生がここを作ってくれはらへんかったら、私は、かるたと出会う事すら無かったと思います」
「大袈裟やな」
「大袈裟やと思いますか?」
「うん。それでも俺は……君の大袈裟なところ、嫌いやない」
最後の釦がぷちり、と掛かる音がした。