とろとろ、とろり。ふんわりと焼かれたホットケーキに、きらきら光るはちみつがかかっていく。
スプーンからしたたるそれは金色のような、透明のような、不思議でキレイな色をしていて、漂ってくる甘い匂いにごくりと、唾を飲みこんだ。
溶けていくバターとはちみつがからみあって、混ざって、濁って、ああ、すごく、おいしそう。
スプーンを置いて、両手にナイフとフォークを持つ。まだうまく使えないけどがんばって切り分けて、一口頬張った。

「おいしい……」

甘くてあったかくて、すごくおいしい。
向かいのソファーに座るシンタローも、もごもごと口を動かしてにやにやしている。あ、ちがう。こういうの、顔をほころばせるっていうんだ。たぶん。
教えてもらった言葉を思い出しながら、ホットケーキをまた一口食べた。もう一口。もう一口。
次々とホットケーキを切って口に入れていると、僕の隣から、くすくすと笑い声が聞こえた。
なに笑ってるの、と言おうとしたけど、口のなかがホットケーキで埋まっていて喋れない。

「いっぱいあるから、ゆっくり食べなよ」
「んむ」

僕の隣で、ナイフとフォークを上手に使ってホットケーキを食べる彼女は、メカクシ団の「お手伝いさん」らしい。確かキドは得意げな顔──たぶんどやがおってやつだ──で「情報屋」とも言っていたと思う。
よくわからないけど、悪い人ではない、みたい。
よく恐竜の本を持ってきてくれるし、おもしろい話もしてくれるし、今日みたいにおいしいものもくれる。いい人だ。

「コノハ」

ホットケーキを飲みこみながら考えていると、名前を呼ばれた。隣に顔を向けると、何か布が口元にあてられた。たぶん、ハンカチ、かな。

「蜂蜜ついてたよ」
「ありがとう」

情報屋さんがにっこりと笑って、再びホットケーキを口に入れた。キレイに食べる彼女は、口元も手も、全然汚れてない。
この前モモやマリーと一緒に見たドラマの、女の人と男の人がやってたこと、今なら僕にもできるかな、って思って、僕はナイフとフォークをお皿の上に置いた。
情報屋さんがフォークに突き刺されたホットケーキを口に運んだのを見て、彼女の名前を呼ぶ。
ごくりと喉を動かしながらこっちを見た瞬間、その頬を両手ではさんだ。
目を丸くしている情報屋さんに顔を近づける。シンタローの方からがたんと音が聞こえた。

「こ、のは?」

困惑した声で僕の名前を呟く彼女の、その口のすぐ横を舌で舐めた。びく、と肩をはねさせて、目をぎゅっと瞑っているのが、なんだか、すごくかわいいなあなんて思って。
顔を離すと、彼女はゆっくりと目を開けた。
動揺したように揺れる視線を捕まえて、そのまま僕は口を開く。

「はちみつついてたよ」

うそ、だけどね。
顔を真っ赤にしている情報屋さんの耳元に口を寄せて、ドラマで見たセリフを言ってみた。

「キスされると思った?」

それは甘いいたずら



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