影山くんが寝ている。
昼食を食べ終えたあとの数学の授業は、きっと彼にとっては子守唄だったのだろう。
先生が黒板に呪文のような方程式を書いている音をBGMにして、影山くんを観察する。
隣の席に座っていると彼が授業中に居眠りをしているのを頻繁に見るけれど、机に伏せて寝ることが多いので、今回のように頬杖をついて寝ているのはレアケースだった。
触り心地のよさそうなつやつやの黒髪。閉じられた瞼から伸びるまつ毛は長く、規則的な呼吸を繰り返している唇は薄い。
背は高いし、脚も長い。指だって綺麗だ。
やっぱり、影山くんはかっこいい。美形だと思う。それにスタイルも抜群だ。
普段は少し目つきが悪く、口も悪いけれど、こうやって眠っている姿はどこかあどけない。
美人の顔って、ずっと眺めていられるなあ。
ぼんやりとそんなことを考えながら影山くんを見ていると、彼が頬杖をついていた手からずり落ちて、そのせいでぱちりと目を覚ましてしまった。
目を擦り、小さくあくびをしてから、彼はこちらに視線を向ける。
ばちり、と目が合って、心臓が跳ねた。
ずっと見てたの、バレたかな。
内心焦りながら、でもここであからさまに目を逸らすのもなんだか変だし、影山くんの綺麗な瞳を見つめつづける。
数秒間、両者硬直。
やがて影山くんが視線を逸らし、奇妙なにらめっこに終止符を打った。
何故か少し赤くなっている耳に首を傾げていると、彼はちらりとこちらに目を向ける。寝起きだからか、それとも授業中だからか、その目も声も普段より弱々しい気がする。

「あんまり、見んな」
「えっ」

やっぱり、寝顔を観察していたことがバレたのだろうか。罪悪感からか羞恥からか、ぶわっと顔が熱くなるのを感じた。
私が謝罪の言葉を言おうと口を開くよりも先に、影山くんが小さく声を出す。

「おまえに見られると、なんか、……緊張する?」
「ご、ごめんね」

影山くんの言いたいことはよくわからないけど、とにかくあまり私に見られたくないのだろう。
若干残念な気持ちを抱きながら、謝罪のあとに「かっこよかったから、つい」とつづけると、彼は切れ長の目を珍しくぱちくりと瞬かせて、次いでその顔をじわじわと赤く染めていった。
その反応を不思議に思っていると、何か言いたげな表情を浮かべたあと、影山くんが私から顔を背ける。そしてそのまま机に伏せ、綺麗な顔を隠してしまった。
短い黒髪から覗く彼の耳は真っ赤だ。
それを見て、かっこよかったから、つい。なんて口を滑らせたことを思い出す。
私、もしかしてすごく照れくさいことを口走ってしまったのではないだろうか。
恥ずかしさに心拍数が跳ね上がるのを感じながら、黒板に目を向ける。授業はまったく頭に入ってこなかった。

それは甘い含羞



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