私の幼なじみは、昔から私がいないと何もできない子だった。
幼少期を共に過ごして、よく一緒にままごとやらなんやらで遊んだのを覚えている。
小学校中学年の頃に私が引っ越していったん離れたけど、彼女は頻繁に手紙を送ってくれて、それを読むのも、返事を書くのも楽しかった。
中学でまた再会できたときはすごく嬉しくて、でも、私がいない間に散々いじめを受けたらしい彼女は、ひどく卑屈になってしまっていた。
いじめられてるなんて、手紙では何も言ってなかったのに。きっと、遠くにいる私に心配をかけないように、無理をして明るい話題ばかり書いていたんだろう。
彼女に頼ってもらえなかったことが少しだけショックで、でも、助けを求められていたとしても、私には何もできなかっただろうことを思うと、どうしようもなく悔しかった。
だから私は、せっかく同じ中学になれたからには必ず蜜柑を守ると、そう決めたのだ。
だって蜜柑は、私がいないと何もできないから。


中学3年、冬。高校受験も大詰めを迎え、どことなくピリピリした空気が漂う教室で、蜜柑がひどく暗い表情で話しかけてきた。

「希望ヶ峰学園? 蜜柑が?」

超高校級の保健委員として、あの希望ヶ峰学園に入学が決まったと言うのだ。
とても喜ばしいことのはずだが、彼女は何故か落ち込んでいるようで、落ち着きなく視線を泳がせてきゅっと唇を結んだ。

「おめでとう、すごいじゃん」
「う、う……でも……」

涙目で私を見つめる蜜柑の様子に、なんとなくその理由を察する。
おそらく、私と離れ離れになるのが不安なんだろう。私も、おめでとうとは言ったが、てっきり高校も同じところに行くのだろうとぼんやり思っていたから、少しだけ寂しい。

「私とちがう高校に行くの、嫌?」

そう聞くと、彼女は何回も頷いた。
ざんばらに切られた黒髪が揺れるのが目に入って、私のいないところでまた蜜柑がいじめられたらどうしよう、と考える。男子からも女子からもいじめられている蜜柑を助けられるのは、私しかいないのに。
ところどころに包帯が巻かれた彼女の体は、ひどく痛々しい。何もないところで頻繁に転ぶ蜜柑に手を差し伸べる人間が、私以外にいるだろうか。
だけどもし、私以外にそんな人が現れたら、蜜柑は私のことを忘れてしまうのだろうか。
それは、嫌だな。

「なら蜜柑、指切りしよう」
「ゆ、指切り……?」

小指を差し出しながら言うと、蜜柑は不思議そうに首を傾げた。
そう、これは蜜柑のため。蜜柑を安心させるために、私たちは約束をする。

「この先何があっても、私が蜜柑を守るから。だから、蜜柑は私のこと、忘れないで」
「ほ、本当に……? 本当に、私のこと助けてくれますか?」
「それを約束するために指切りするんだよ」

不安そうに揺れる瞳で私を見ていた蜜柑が、ふっと笑って顔を赤らめた。
おずおずと私の小指に自分のそれを絡めて、彼女は酔っ払ったみたいにうっとりした表情を浮かべる。

「指切った」

私たちが針を千本飲むことは、絶対にない。
だって、蜜柑は私がいないと、何もできないもんね。

それは甘い依存



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