暖かい。柔らかい。
そんな心地よい夢から、ゆっくりゆっくり意識が浮上していく。

「おはようございます」

頭上からのその声に目を開けると、さらさらの黒髪を揺らしてほほ笑む夢子ちゃんがいた。
あれ、どういう状況だ。
確か昼休みに、夢子ちゃんに昼食一緒にいかがですかって誘ってもらえて、それで裏庭の芝生の上で一緒にお昼ご飯食べてて、えっと、あれ、なんで、かな。

「どうして私、夢子ちゃんに膝枕してもらってるのかな?」
「昼食を食べ終わったあと、眠くなってきたと仰ったので、ぜひ私の膝を使ってくださいと申し出たんです」
「なるほど」

優しいなあ夢子ちゃん。
そしてなんだか申し訳ないなあ。重かっただろうに。足も痺れたかもしれない。

「ごめん、起きるね」
「大丈夫ですよ。もう少しこのままでも」
「え、でも」
「大丈夫です」

首に力を入れて起き上がろうとしたが、にっこり笑顔でそう言われたのでもう一度夢子ちゃんの膝に頭を預けた。お言葉に甘えて、もう少し寛がせてもらおう。

「あ、でも、時間は大丈夫かな」
「はい。大丈夫です」
「夢子ちゃん、いま何時?」
「……」
「……夢子ちゃん」

笑顔のまま何も喋らない夢子ちゃんに、察してしまった。午後の授業、何個かサボってしまっているんだろう。
まあ、この学園ではギャンブルさえ強ければ多少授業成績が悪くても生き残れるし、大丈夫……じゃないかもしれないけど。大丈夫、ってことにしておこう。
うんうんと何度か頷いて自分に言い聞かせる。
すると、夢子ちゃんがくすくすと控えめな笑い声をあげた。

「ふふ、くすぐったい」
「あ、ごめんね」

やっぱり起きようかな、と頭を上げようとしたのと同時に、夢子ちゃんの綺麗な指が私の髪を撫でた。起き上がることを制しているようにも感じるその行動に、諦めて体の力を抜き、目を閉じる。

「もう少し」
「うん?」
「もう少し、この時間を楽しんでいたいんです」

目を開ける。どこか遠くを見つめていた夢子ちゃんは、寂しげな笑顔を私に向けた。

「こんなに無条件で得られる幸せがあるなんて、知らなかったです」

そう言って、彼女はまた私の髪を撫で、目を細める。泣きそうにも見えるその表情を見て、思わずぽつりと声がもれた。

「それはちがうよ」

私が夢子ちゃんの言葉を否定したことに驚いたのか、「え?」と戸惑う声が聞こえる。
それでも、私の言葉は、するすると簡単に口から出ていった。

「幸せは、リスクを伴うものじゃない」

私の頭を撫でていた夢子ちゃんの手が止まった。
少し雲が広がる空を見つめながら、私は続ける。

「きっと、ね」

にっこり。夢子ちゃんみたいに、綺麗に笑えただろうか。

それは甘い幸福



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