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大学に入学して1月過ぎようか、という時に。
気紛れで参加したサークルの新歓飲み会で俺はその場にあまりにも似つかわしくない、異質な空気を纏うその人を見つけたんだ。

君はあの影を見たか


そのサークルは半ば学生生協?だか学祭実行?だかを3つあるうちの1つのキャンパスだけで10以上もの学部があり、生徒も1つの学部一学年何百人も居るキャンパスの生徒をとにかく統制しつつ遊ぶサークルらしい。取り敢えず俺は先輩にそう説明された。
「いやだって俺もこのサークルよく分かんないけど入ってる身だし」
黒髪で細身、凛々しい顔して添田と名乗った先輩は俺とか同じ学部の友達に笑いながら説明してくれた。
「仕方ないよ、添田本職の軽音サーで忙しいからよく分かってねーんだよな。こんなアホな先輩無視して飲んでいいからな」
「あれっ児玉さん俺と同じバンド…」
ビールグラスを持って帽子を被った先輩がしょげた添田先輩を押しのけて向かいに座って来た。
「あ、俺は児玉隆文。経済学部の3年な。こいつは添田嶺汰。あれっお前どこだっけ学部」
胡座をかいて座る児玉先輩にもたれる添田先輩。顔赤いし目がとろんとしている。
「隆文ひでー!俺は総政だっつの!」
「ごめん忘れてた。嶺汰は総政で外交研究してる3年な。酒癖悪くて悪絡みするから気をつけろよ」
意外。このキャンパスどちらかといえば理系中心だしてっきり添田先輩理系だと思ってた。総政は文理混合で学年でキャンパス分かれるらしい。
「隆文おいこらどういう意味だ」
頬を膨らます添田先輩を見て児玉先輩は溜め息を吐く。
「そのまんまの意味だよ。ちょっとお前酔い覚ませ、1年生迷惑してんじゃん…あ、名前聞いてい?」
「経営学部1年の笠原逞っす。宜しくお願いしまーす」
「教育学部数学科1年の大西紘平です。宜しくお願いします」
俺や高校から一緒だった紘平はじめ共に来ていたメンバー皆で紹介する。
「宜しくなー!!つか経済居ねぇじゃん…まぁでも経営でもちょっとはアドバイス出来るわ。ここには居ないけどもう一人のバンドメンバーも経営だしな。経済経営なんて大ざっぱな所一緒だし。」
児玉先輩はそう言って笑った。
「まぁでも楽しめよ。サークルとかゆっくり決めりゃいいし、大学生遊んどかなきゃな!それに就活あるしなーまじあっという間だから」
「あれっ遊び人児玉さんから就活なんて言葉出るんだ意外…痛っ」
はたかれた添田先輩は涙目だ。
「おいお前飲み過ぎ。俺予めセーブしとけって言ったよな?連れて帰る俺の身にもなってくれ」
児玉先輩は溜め息混じりに言った。
「まぁこのアホ添田みたいになるまで飲めとは言わねーけど、折角の新歓なんだから楽しんでけよ。飲めるなら飲んどけばいいし」
笑って児玉先輩は言いグラス内のビールを飲み干した。
「ビール頂いてまーす!!」
俺も笑顔で返した。未成年だがそこそこは飲める自信がある。

「つかいいよな、軽音なんか酒意外と弱い奴多いんだよ…飲み会自体そうそう出来ないし添田はじめ付き添いが必要な奴一気に増えるし。まぁ女で飲み放全種制覇で素面って勇者もいるけど」
それは凄い。
「横瀬は特殊だろ…あいつビールも日本酒も不味いから嫌いで1杯しか飲まないじゃん」
寝てたはずの添田先輩がぼやく。少しは酔いが覚めたみたいだ。
「でもこの前の2時間の時最初にビールと日本酒をジュース組の注文枠貰ってあとひたすらサワー系20種と締めのテキーラはまじ半端なかったって」
…最早何も言えない。俺でもそれは無理だ。
「ちなみに横瀬さんとやらは経営な。今年2年だけど卒業単位制覇間近で簿記2級受かったらしいし。まじキチガイ」
1年で緩い経営でもフル単はかなり難しい。卒業単位制覇って何なんだろうか。
「横瀬さん呼びました?」
そうしたら白縁の眼鏡を掛けた灰色中心に黒の混じった髪色のショートカットの人が来た。外見からして女には全く見えない。
「呼んでないけど武勇伝話してた」
「児玉が横瀬のことキチガイだってさ」
添田先輩が余計なことを喋るが横瀬先輩とやらは反応を示さない。
「ってか添田先輩また酔ったんですか…」
「今回はビール5杯なう!」
にこにこ笑って手のひらを広げた添田先輩。
「…聞きたくないけど横瀬は」
「あー今回そんなに飲んでないですね。ビール銘柄嫌いなところだから酎ハイ総攻めですよ?えっと何飲んだっけ…シャンディ3杯と青リンゴ巨峰に梅とカシスとレモンとイチゴと…今カルピスサワーなんで10杯目です」
横瀬先輩は全く顔が赤くない。ちゃんと喋れてる。ふらついてる様子もない。
「別に酎ハイだしアルコール少ないから酔いませんって」
横瀬先輩笑ってるけどそれ笑えません。

「所でピッチャー貰えません?相席の先輩に飲みたいって私駆り出されたんですよ、あ、皆飲むならいいけど」
横瀬先輩は俺らの席にあるピッチャーを指差し言った。
「えっもうお前自分の席でピッチャー注文しろよ。お前飲めるだろ」
「10分前に頼んだんですよ、来ないから宮内先輩イライラしてるし」
そう言い横瀬先輩は端の席を指差した。児玉先輩は気のせいか眉を潜めた。
「お前らに付き合っている1年可哀想だな…先輩に恵まれなさすぎだろ」
「先輩が最初に1年追い出したんですよ。私は1年の子と話したいってのに…タツも同じ理由で周り行ってます」
「わーまじ横瀬と高羽弟どんまーい」
俺もふらっとその席を見た。そこには男同士で寄り添い合っている光景…しかし二人はあまりにも対照的で、金髪の先輩は顔をしかめて何かを呟いており、もう一人の黒髪黒縁眼鏡の人は彼に目もくれずスマートホンでひたすら液晶を触っている。なぜか俺はその人から目が離せない。
「つかなんであの二人今回来てるか全くもって謎なんだけど」
「少なくとも高羽先輩はタツが連れ出しました。2週間研究室に引きこもってたからって。宮内先輩は付き添いなんじゃないですか」
そういう会話が繰り広げられてる中でも、俺はずっと携帯を弄ってる人が気になって仕方がない。ガタイが良い。本当に良い。同じ大学生に見えないほど大人びてる。髪は黒髪ぼさぼさで手入れ感はしないけど、目が凛々しい。目が離せない。

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