真っ暗闇で一人待ちぼうけ。
バイトでよう分からんど田舎の現場に飛ばされた。これだから派遣は。
バイト内容自体は良かったが県外で片道2時間掛かり1時間25分に1回しか来ない電車というか鉄道に乗り逃した身としてはイライラすることこの上ない。行きは1両編成の電車にテンション上がった自分まじ馬鹿だ。
大体日給より交通費が上まるってどういうことだよ。地元は東京に比べたら田舎思ってたけどここまじど田舎じゃねぇか。まぁ広い土地ででかいショッピングモールあるから若干田舎って解釈が正しいのかもしれないが。しかし派遣先のショッピングモールはがちで設備良かった。ボーリング場もゲーセンも映画館もあった。好きな服屋と楽器屋あったのは個人的にテンション上がった。田舎だからか。
そしてそのショッピングモールに直結してるはずなのに場所が全く分からなかった駅。自分の中では屋根付きの屋外の駅ってなかなか新鮮味あるけど無人じゃねぇか。…つか今老夫婦が線路沿いに散歩してったけどあれいいのか。
あまりにも無人すぎて周囲も田んぼ空き地ばかりで明かりが少ない。住宅街の明かりが遠い。多い方なのかもしれないけど地下鉄に慣れてる自分には暗い部類だ。屋外なのに中途半端な時期だから虫の鳴き声も一切聞こえないしあるのは風の音くらい。昼は夏並の暑さだったから薄着で来たら大失敗だ。寒い。
電車が来るまであと20分。自分は丁度電車乗り逃したから1時間待ってることになる。携帯も若干電池危ないからこれで乗り換えが2回あるのを考えると暇すぎる。音楽プレイヤーに入ってるアルバムも既に1周してる。ショッピングモールでぎりぎりまで待ち直すという手はあるにはあるがバイトしてた現場だし性格上散財するのは目に見えているので待ってて正解だろう。交通費のせいで当分自分の経済状況はしんどいものになるし。まぁ外はさむいけど。
座り始めた時は日が沈んだ時で空は薄青と青、雲のきれいなコントラストだったが今は黒に近い青に星が瞬いてる状態だ。

「横いいか?」
男の人が聞いてきた。眼鏡を掛けた背の高い青年。自分はイヤホンを外し席を詰める。
「地元の人じゃないだろう」
問いかけられたので音楽を止めイヤホンを巻き取る。
「バイトです。何で地元の人じゃないと」
男の人は少し笑った。
「遠くを見つめる瞳がどうみても初めてこの景色を見ました、って感じだったからさ」
そんなの分かるのか、少し自分の行動の幼稚さを恥じた。
「いや、地元からしたらこんな場所でもわくわくしてくれる反応を見るのは嬉しいからさ」
煙草吸うね、と彼は煙草を取り出し言った。
「地元の方ですか」
「まぁ君からしたらそういう解釈だね、一応大学は都会の方なんだけどさ」
彼が大学生というのがびっくりした。自分とはあまりにも違いすぎて大人びている。都会、と言って告げられた市は自分の住所の市だった。驚いてそう話すと、
「僕は君が大学生だというのは何となく分かったよ」
と微笑まれた。
「ここのバイトは今日だけ?」
電車の到着時刻が近づくと彼がそう聞いてきた。
「いえ、明後日もあります」
そうか、と彼は呟く。自分自身ではここに来たのは良いことだと感じた。億劫なのは交通費だけだ。
「むしろ明後日で行けなくなるってのがつらいくらいですね」
「まぁここは遠いから仕方ないよ」
自分の言葉に対してそう言った彼の声が少しトーンが下がったのは気のせいだろうか。
汽笛が鳴る。
「まぁ明後日もう一度来るならこんな田舎だけど映画観るなり楽しんでおいでよ。それじゃあ」
「ありがとうございます。お話できて楽しかったです」
席を立ちお辞儀をした。こちらこそ、と彼が呟いた。
電車が来る。いつの間にか周りにも何人か人が居る。この中に自分みたいに都会まで行く人は居るだろうか。
「じゃあね」
彼は手を振り、自分はお辞儀して電車に乗り込んだ。
「ありがとうございました」
「気をつけてね」

電車に揺られる。外はトンネルなんてないのに真っ暗。住宅街に近づいているはずなのに明かりは遠い。電車の明かりが逆に目立つくらいだ。
そういえば、彼にはまた会えるだろうか、あの田舎具合には少し合わない雰囲気だったけど会えるならまた会いたいな、と考え帰途に就く自分だった。





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