「佐世保ジャンキーにしか聴こえないんだけど」
「うるさいしらんだまれ…あ、あぶねギリ繋がった」

***

今日はゼミの打ち上げである。しかしゼミのほとんどを占める女子メンバーの子たちはまだ夕方まで講義があるとかだし、三人しか男子がいない中親友の鷹原は集合時間まで高校生の彼女と会っておきたいとかでここにはいない。リア充爆発しやがれ。
というわけで今日はもう午前だけで講義のない俺と戸松は集合時間まで時間を潰すことになった。
戸松は俺のゼミの長身イケメンだが普段はヘッドフォンをしてタブレット端末で女の子のエロゲーを公共の場でやるキモヲタだ。自ら喋るやつでもないが、時に適当なゼミ教授よりも的確なことを言ってのける秀才型である。外見のこともあってか女子にも人気である。ちくしょうめ。
あ?俺のゼミ内でのポジション?きくな!

とりあえず、戸松には正直関わりたくない。なんで鷹原いないかなぁ…
とりあえず暇だし好きな漫画のパチンコ版があったのでやろうかと思ったがなぜか戸松が二人で集合場所に行こうと言い出し、パチンコに行くか戸松が希望したゲーセンに行くかでじゃんけんしたらまさかの俺は敗北してしまった。というわけでただ今戸松に付き合わされゲーセンなう。
俺の持論としては音ゲーなんて見返りのないものに金を費やすならば博打といえどお金が時には返ってくるパチンコのほうが絶対絶対ましだと思う。
そして勝者戸松は敗者の俺を放置して現在無駄にごつくて鍵盤と皿?の筺体のゲームに夢中である。音楽が流れつつ画面の端になんか次々落ちてくるものがあるがずっと数字が増えていってる。なにこれきもちわるい。
つーかなんで俺ここで戸松に付き合わされてぼーっと見てるわけ?パチンコやりに行きたいんだけど。プレイ中話しかけたらうるさい黙れと言われたし。移動していいよね?
「みーなみ」
そろりと離れたら戸松に呼び止められた。お前まだカチカチやってるだろ。というか呼ばれてなぜ立ち止まったよ俺。
画面を見たらちょうどグラフが出ていた。AAA。スコアいいんかな?わからん。
「三波、待っててって言ったじゃん」
戸松に肩を掴まれる、いたい。
「あ?なんで俺お前に付き合わされないかんの?お前別に遊んでりゃいいじゃん俺音ゲー興味ないしパチンコやりたいし」
「じゃんけん負けたのは三波じゃんか、ってそもそも音ゲー全く興味ないんかよ…」
戸松の独り言に欠伸で応える。…無意識だ無意識。
「わかった、あと一曲だから三波はいい子だしここでもうちょっとだけおとなしく待ってて。できれば見てて欲しいけど」
知るか。
「できてるかどうかも知らんわ、つーか自慢かよ」
「否定はしない」
戸松は乾いた笑いをした。
「知ってたか?俺みなみって呼ばれるの嫌いなんだよ」
曲の選択をしているであろう戸松に言う。
「結構俺みなみって呼んでたけど後出しなんだね、鷹原とかゼミの女の子にはみなみって呼ぶの許してるじゃん」
基本的に戸松はこちらを振り向かない。
「戸松の呼び方が気持ち悪いだけ」
「いやお前名前で呼ばれるのも嫌いなんだろ?じゃあ俺呼びようがないじゃん」
三波って名字も女っぽい上に俺の名前も女っぽい。女家族で育ってるから仕方ないが。
「なんだろ、とにかく戸松の呼び方が気持ち悪すぎて寒気して…なんだよ話聞いてねーじゃん」
戸松は再びかたかたと音ゲーに勤しんでた。

***

「まじかー、みなみちゃん可愛いから仕方ないよねー!」
「みなみちゃん女装してみない?ぜーったいピンクの姫系とか似合うと思う!」
このゼミの女子共本当嫌い。酒はいると腐女子の本性表すもん!気持ち悪い!
そりゃ鷹原もJKに逃げるよなぁ…写真見せてもらったけどこいつらより大人っぽい清楚系だったもん!
その鷹原はゼミの教授と真面目っぽいお話中。そして俺はというと珍しく女子に囲まれたと思ったら女装しろだの化粧させろだのの…普段講義でうるさいって怒鳴ってくるくせに!
「おーい、みなみは俺のだからあんま囲い込みしないでくれよー」
背後から更に気持ち悪い男に抱きつかれる。なんでこいつこんなガタイいいの?なんで俺こんなすっぽりと戸松の中に収まるの?へこむわ。
「うーわ出たよ戸松の強欲さ。みなみちゃんは皆のものだよー」
「独り占めすんなー!」
「俺は戸松のものでも誰のものでもねーよ!」
お前らまじいい加減にしろ!そして戸松の抱きしめる力が強すぎてもはや痛い。酔うのはえーよ。
「あーでもみなみの女装姿みてぇなー」
ちょっとまて、お前頭なでなでしてるけど俺の勘違いでなければなんか、で、臀部に硬いもん当たってんだけど、どういうこと?
「お?戸松も見たいよねー、みなみちゃんの女装姿。と思って、じゃーん!」
いつの間にか参加してたゼミ長が紙袋から何かを取り出した。その何かとは、え、え??????

「め、メイド服?」

ゼミ長、普段ぼっちで講義受けてぼっちで黙々と酒飲んでんのに何加わって何持ってきてんの?
「やばいゼミ長グッジョブすぎでしょ」
「ゼミ長今日講義干してたのこれ買いに行ってたの?」
「お、ご明察。多分三波のサイズは合うはず」
ご明察合うはずじゃねーよ!あんた講義干してなにやってんだよ!
「というわけで三波はこれ着てね。下着もちゃんと新品買ってきたから。ベルトの付け方わかんないならメールしてきて、あ、皆三波の化粧手伝ってあげて」
「やったぁ、了解ー!」
「やだよ!」
俺はもちろん大反対。なんで女子共化粧道具を早速取り出してんだよ!
「お?三波反発すんの?じゃあこの前のレポート翻訳手伝ったの教授に言っておくね」
ゼミ長はにこにこと笑顔で小声でとんでもないことを囁く。ちょっと前の自分何やってだ、逃げ道もうないじゃん…
「ごめんなさいごめんなさいそれは避けたいです」
「なら分かってるよね?戸松離してあげて、着替えさせるから」
ゼミ長こえーよ。

***

結局無理矢理着替えさせられて化粧もさせられて…なんで下着も女性物(しかも結構過激)なの?ゼミ長なに買って来てんの?まじこの人感性疑うわ…
「やばいゼミ長ありがとう、三波かわいい!」
「三波ちゃんウィッグつけて化粧すると普通に女の子っぽいよね、小柄だし」
「小柄いうな!」
メイド服の割にスカート丈短すぎるし下着の生地薄いからスースーする…ガーターベルトなんて自分がつけるとは思わなかったわ!
「もうやだ婿に行けない…」
「おー三波すげー」
いつの間にか鷹原とゼミ教授も加わって写メ撮ってる、もうやめてー!
そして諸悪の根源のゼミ長と戸松はこちらを見つつ何やら少し離れたところで話し合ってる。何やってんのお前らこえーよ。
もうやだ酒飲む!

***

「みーなみ」
頭なでなできもちいい。ほわほわする。
「にゃにー?」
「みなみ、帰るよ。立てる?」
かえるのやだー。足痺れたしたてないー
「仕方ないなぁ。抱っこしてあげるからね、よしっと」
身体が宙に浮く。なんかぱしゃぱしゃうるしゃいー
「みなみ、首元苦しい。タクシー乗れる?」
「やだ酔うー」
ふわふわふわー
眠たいなー居心地がいい。

「瑞穂」

唇がふわふわする。耳くすぐったい。
その声で名前呼ばれるときゅーってする。

***

目が覚めたら頭ズキズキする。見たことない壁紙なんだけどここどこ?
「んー」
起き上がろうにも何かの抑える力が強いのか起き上がれない。腕?え?
恐る恐る横を向く。男の人?は?
何処かで見たことあるような…
ぱちっと向こうが目を覚まし目線が合う。
「瑞穂おはよ」
この声は…
「うぎゃあああああああああ」

「寒ボロ立った、名前で呼ぶな気持ち悪い!」
慌ててベッドから戸松を蹴っ飛ばす。なんでお前全裸なの、無駄にガタイいいのまじで。
「昨日散々酔ってたくせに朝っぱらから元気だなー、昨日マジで可愛かったからお持ち帰りしちゃった」
しちゃったってどういうことだよ、何をだよ!
「んーナニ、を?」
にこりと微笑んだ戸松に対しは?と叫んだ途端なんかあたまずきーんときた。
戸松はいつになく優しい目線で俺のことを撫でる。
「んー、よかった、綺麗に痕ついてる」
痕?
撫でられたところを見ると肌に紅い痕…
「ちょ待てなんでおれそもそもニーハイ以外全裸なの!?」
気づくのおせーよ、とくつくつ笑う戸松にもう一発喰らわせといた。
まじ頭痛い。
「瑞穂ひどいなぁ…昨日はあんなに可愛かったのに」
「名前で呼ぶな!気持ち悪い!」
「そんな、みなみちゃんつーれなーい」
「お前やっぱ名字でも呼ぶな気色悪い!」

まぁしっかし人の順応力というものは我ながら気持ち悪いよな。よもやこの件でゼミの人々(主にゼミ長)から囲い込み食らって半ば強制的に戸松と交際してることにされて戸松は戸松で満更でもないみたいで何か戸松がこの前のメイド服とか下着のお金払ってるっぽいし、戸松のつくるごはん美味しかったし、現在同棲状態になって、それで…
「あー瑞穂まじ可愛い。ピンクのネグリジェスケスケで可愛いー」
「き、気持ち悪いこの変態野郎!」
「ふーん。そんな変態野郎に男なのに女物のスケスケピンクのネグリジェ姿見せて可愛いところ膨らませてる瑞穂はどうなの?もうそろそろ限界なんでしょ?瑞穂も人のこと言えずにこの状況に興奮して後ろひくひくさせてる変態さんなのにね」
エロゲー大魔神の戸松の発言一つ一つが気持ち悪いけどもう自分自身も順応して反応しちゃって、限界である。
「やだ、もう言わないで」
「瑞穂やだやだ言ってるけどなんだかんだ欲しいんでしょ?可愛い。
何が欲しいの?強請ってごらん?」
こ、この野郎!ただ、確かにもう限界である。堪え性のない自分に嫌気が差す。
「も、戸松、お願い」
「何がお願いなの?腰振ってるだけじゃわからないから具体的に言って。
あと戸松って名字じゃなくて俺の名前呼んでごらん?」
やだ、やだやだやだ。
ただもう理性が限界。
「あ、あきら、あきらのおっきいこれ、お、俺のなかいれて…!」
「だめ、30点」
もう嫌だー!





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