インターネットを通じて趣味関係で知り合った女の子と一度会うことになった。その話をクラスメイトの大地にしたら「お前奥手ヘタレのヲタクなのによくやったなぁ!」と言われて小突かれたけど決してナンパとかそういう意識はないんだけどなぁ。
しかも趣味というのも女子中高生くらいのアイドル鑑賞。人気のアイドルグループの公演等は事前に倍率の高い抽選があるので、今回は申し込みなしで公演も見れるアイドルカフェに行こうという話になった。女ヲタさんが僕の周りではいないのと推しの子の好みが合ったのとあって勇気を持って誘ってみたのだ。
「つーか、ドルヲタこえーわ」
アイドルではなく普通の女の子がいい、と大地は言う。それは普通の女の子でも相手にしてもらえるイケメンだから言えるセリフなんだよ…。
「さて、その女ヲタの子は外見はどんな感じよ?」
大地がにやにや笑って聞く。
写真とかのプロフィールまではお互い交換してない、と言うとつまらなさそうな顔をされたが仕方ないだろ。写メを頼むのもあれだし僕個人当日でいいかな、と思っていたのだ。釣りなら釣りでいいし、釣りの割には意外と自分を曝け出す部分もあったからだ。年齢は僕と同じ高校三年生でこれまた同じく推薦で大学も決まっている。しかも同じ大学でキャンパスも同じときた。ちなみに高校は同じ市内の中でも有名な進学校だった。さすがにここまできて釣りだったらどうしようかと思うが、まぁそこは騙されたら騙されたでいいやと考える。
「気楽やな悠麻も…」
大地はそんな僕に呆れ顔だ。そうこうするうちに最寄り駅に着く。かつては僕も大地も同じ路線で一緒に帰る身だったが、大地は推薦が決まってから学校で内緒で接客のアルバイトを始めたので反対側の車線に乗っていく。背はちょっぴり低めだが鼻筋通っててイケメンで時折優しく微笑む大地ならきっとお客さんにも気に入られてるだろうと思う。なんだかんだ真面目だし。
「じゃーな、週末は楽しんで!ちゃんと報告しろよ!」
電車が来て別れ際そう言われた。
「大地もバイト頑張れよーさぼんなよー」
僕も返しておいた。大地はにこっと笑って電車に乗った。

さて大地には詳しく言わなかったが週末会う女の子の名前は宙(そら)さん。しかもちゃんとした携帯のアドレスを持っている。ここが釣りでないと思っている最大の要因。
そして今は待ち合わせの場所にいる。お互いの服装等の特徴は予め伝えてある。
宙さんはロングヘアーで紺の水玉のワンピースを着てマフラーをしているらしい。対する僕は普通にカーキのトレーナーにジーパン。普段制服だからアルバイトをしていない高校生が自腹で買う服はこれくらいしかまともに持ち合わせがないのも事実である。
目でらしき人物を探してたら肩を叩かれた。
「あの、人違いでしたらすみません、ユウマさんですか…?」
控えめに声をかけられる。眉下で切り揃えられた前髪、目線は僕のほんの下、ストレートのロングヘアー紺のワンピース。
「あ、はい、宙さんでしょうか?」
すこしどもりながらそう尋ねるとにこりと笑った。あ、この笑い方大地に似てる。
「はい、宮島宙です、宜しくお願いします」
背が女の子にしては高めかな、とも思ったがヒールを履いていたので納得した。
濱岡悠麻です、と自己紹介した。
「悠麻さん眼鏡かけてるなら教えてくれればよかったのに…眼鏡の話きいてなかったからちょっと不安だった」
「ごめん、コンタクト切らしてたから急遽眼鏡かけてきた」
べつになくても平気なのは平気なのだがとも思って当初報告なしに電車に乗ったら意外と裸眼で見えなくて自分の視力の低下に愕然としたのだ。
「あ、わかる。私も遠視気味だからさ」
宙さんはふわりと微笑んだ。
その後は公演が始まるまで近くの喫茶店で僕はアイスコーヒーを、宙さんはホットの抹茶ラテを注文した。ただ席は混んでいたので外のベンチで飲む。
「11月だけどもうマフラーしてるんだね」
「あー、これね。ぬくといからついついしちゃうの」
もしかしたら少し待ってでも店内で飲んだ方が良かったかもしれない。今更ながら後悔はしたが宙さんは満更でもないらしい。
「このマフラー気に入ってるんだー」
聞くと裁縫の得意な兄が作ってくれたらしい。

はじめに僕が好きなアイドルグループの公演を見に行く。宙さんも知っていて推しの子がいるらしくて、お互い周りの目を気にせずコールをしていた。
「あーまいちゃん可愛かった!」
「まいちゃんダンス上達したよね!あとは今まで気にしてなかったけどゆずちゃんってあんな大きく踊る子だったっけ?」
「わかる。私もゆずちゃん見ててすごく気になった。あの子ももう少ししたら一気に殻破りそうだから注目していよー」
お互い今日の公演を振り返る。続いて宙さんの好きなアイドルグループの公演を見に行くことになっていたが、僕があまり立ち寄らないビル街を歩き続けている。宙さんはようやく角のビルの前に止まる。
「ここちょっとマイナーだしまだ駆け出しだけど、悪くはないよ、気に入ってくれるといいな」
少し子供っぽい笑みを浮かべて宙さんはビルの中に入っていった。受付の男の人に一言二言話し黒いカードを渡している。
「あ、この子新規さん」
宙さんはそう言い、受付の人もそれで納得したのだろう。
「ニケさんの紹介か…
ここ会員制で簡単に登録するから適当に名前だけ教えて、偽名でいいから」
受付のひとの言葉に偽名でいいんですかと聞くと、
「本名で言うと後々やりづらくなるよーヲタ活とかでもハンドルネームの方がやりやすいし」
ちなみに私はニケでやってる、と宙さんは答えた。そういえばネットでニケって名乗ってたな。
「あ、じゃあハルでお願いします」
悠の字からハル。
「ひねりないなぁ」と宙さんは笑った。
「ハルくん、ね…宜しくね。僕はこの"Bg cafe"の総合プロデューサーであり店長をしています、松永です」
店長が受付をするというパターンは珍しいのではないか、と思いつつも差し出された手を握り返した。何も書かれていない、真っ青なカードを渡される。
「ちょっと松永さん、完全にスカウトしようとしてるじゃんだめだよー」
スカウト?何の話?
「しないよー、桃やないし。
まぁハルくん今日は楽しんでね」
さりげなく話を逸らされた気はするし内容はよくわからないが松永さんの大人な微笑みを前にしては何も言えなかった。

受付を過ぎると奥に大きな舞台があり、所々丸いテーブルに椅子がつけられている、といった感じであった。舞台の反対側にバーのようなものがある。
僕と宙さんは二人で一つの丸テーブルを占領する。開演時間が近づくに連れ、ちらほらと男性客が増えてきた。テーブル近くの椅子に座る者もいればバーの近くで立ち見する者もいた。
ただ、見た感じ女性は宙さんだけではないか…?
「実はここ、特殊な店なんだ」
宙さんが少し声を抑えて話しかける。そして、開演のブザーが鳴った。
しばらくして軽快な曲に合わせて同年代であろう、5人の女の子が出てくる。5人ともふわりと短いスカートを膨らませて、赤い衣装でにこにこ笑って軽快に踊る。
そして、歌い始めた声は低かった。

「ここ、女装した男の子達のアイドルカフェなんだ」





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