年中夢中 | ナノ
あああ皆様こんにちはこんばんは、しがないバイト戦士児玉隆文と申します。
コンビニバイトなんてやるものじゃないね、ことあるイベント毎に予約数に貢献とかで無理矢理買わされる。
しかも今回あれですぜ、なんかよくわからん恵方巻とかいうやつ。俺の記憶では節分は豆まきするものであって黙ってもごもご恵方巻を食べた記憶はない。
なのに予約とか売上に貢献しなければならないという、しるか!
一応自腹切って一つは買うって言うたけど、ひとつにつき野口さん2枚はバイト戦士の学生には正直嫌な出費である。
「こーだま」
そんなことを考えていたら目の前には添田。カウンターに置かれているのはビールにおにぎり2つにさけるチーズにポテチ。よく食うな。
「あと8番」
「はいはいメンソールね」
「ちげーよ分かっててやってるだろ大概にしろ」
しるかぼけ。
「あ、添田ついでに恵方巻買ってって、予約貢献と思って」
「ん?お金お前持ち?」
「それだったらもう買ってるわ」
添田に恵方巻のチラシを見せる。眉をしかめつつもちらりと俺の方を見る。
「分かった3つな」
まじか。何この太っ腹野郎。
「あ、代金今出すわ」
うーんこの金持ちめ。

そんなこんなで2月3日。一人暮らしっぽいリーマンとかも買っていってなんだかんだで店のノルマは売りきった。
あとは予約で取りにきてないお客さんと俺たちバイト分か。
まぁ今日は23時までだから日付けまたぐ前に黙々と食べればいいや。贅沢な夜ご飯と思って。
「こーだま」
目の前には添田。そういえばこいつも予約してたな。控えと引き換えで恵方巻を渡す。
「あと8番ふたつ」
「はいはい、カートンふたつね」
「ちげーよいい加減にしようか児玉君」
店内にはレジにいる俺と添田だけ。他の店員は倉庫行ってるっぽい。
「児玉今日バイト終わんの何時?」
たまにこいつは俺のバイト上がりを待つことがある。買い物済ませてから待ちがてら雑誌を読むので、バイト先で密かに話題になっているらしい。本人に言うつもりは毛頭ない。
というか、こいつが待っているのは正直やめてほしいものである。こんな黒髪黒服黒の靴と毎日黒ずくめの不審者が知り合いというのは勘弁して欲しいものだ。
ただ、今まで一度もこの男を撒いて自分が何事もなく自宅に帰れたことはない。今回もそうなのだろうとそっとため息を吐いた。お前はストーカーか。
「23時。ただやって行きたい事務作業もある」
そろそろ休憩組が戻ってくるだろうか。そして今現在は21時20分。
ここら辺で帰り道であろう寡黙ですっぴんの女性がいつもの日課でチョコケーキとペットボトルの飲み物を買って行くんだ。
今は他の客がいないからっていつまでも添田と喋っててはいけない。
添田はちらりと腕時計を見、
「わかった、別の店に用事あるからそれ済ませたら迎えに行くわ」
珍しく長居しないようである。内心驚いたが、不審者がいないよりは仕事がしやすいので特に気にならなかった。

件の女性が珍しくチョコケーキにペットボトルのミルクティーに加えお酒(外国ビール)と煙草を買っていた以外には特に何も滞りなく今日のバイトは終了。喫煙者の印象はなかったので驚いたが年齢確認の時見せられた学生証は同じ大学で学部は違えど一つ下の子だった。添田と同じ学部。
バイト終了後宣言通りコンビニ前の駐車場で待っていた添田に聞いてみる。漢字がめちゃくちゃ難しかったんよなぁ…書いてみる。
「えっまじか、帷子(かたびら)って俺のゼミの一個下の代のゼミ長じゃねぇか…あいつこの近くかよ」
かたびらなんて読めない。無理。名前もめちゃくちゃ難しかった記憶がある。叡智の叡。
「教授にはなんでか知らんがクッソ好かれてるけどな。正直俺は後輩としては好きじゃない。横瀬みたいな感じ。
つーかよく横瀬と一緒にいるの見る」
軽音の後輩の横瀬も先輩後輩関わらず意見ははっきりと述べる。個人個人の関わりとしてはいいがサークル代表としてはサークル内に横瀬みたいな奴がいるとやりづらいって添田がぼやいたのをちらりと耳にしたような。
「ちなみに帷子さん?煙草の銘柄ラークだったわ、ミリ数も一番太いやつ」
「うえぇまじかよ」
そんなこんなで添田の住んでいるマンションに到着。俺の実家よりも添田のマンションの方がバイト先は近いのでたまにお世話になっている。
まぁ、それ以外の理由もあるんだけどさ。

俺と添田は元々軽音のサークルでバンドを組んだことがきっかけで関わるようになったんだが、まぁ大学生の遊びの延長みたいなものだ、同じバンドメンバーである以外に添田と何故かセックスするようになった。なんでこいつとヤり始めたんだっけ、っていうのは恐らく添田も思ってると思う。
なんか、成り行きだった。童貞の俺が何故か受け身だったのも、女にもそこそこもてるはずの添田が男の、バンドメンバーの俺とヤってるのも、こんなヘンテコな関係がかれこれ一年半近く続いてるのも。
添田の部屋のインテリアは黒一色。それは変わっていない。添田は未だに気分で煙草の銘柄をころころと変えるので部屋の匂いは日によってちょっと異なるが。ローションは毎回無印だしゴムもいつものやつか、こいつさてはさっきの時間薬局行ったな。
「あーお前そのゴムいつも使ってるよな。使いやすいん?」
ローションやら何やらで尻がべたべたして気持ち悪い中同じベッド内で隣で一服している添田に聞いてみる。
添田はちらりと横たわってる俺を見、ふー、と長く煙を吐く。
「なに?味付きのゴムがいい?」
「あほか、ゴムは変わってないんだなって思っただけだわ」
ふーん、と添田は目線をまっすぐ戻して煙草を再び口に近づける。
「あ、分かった。変わったプレイがしたいの?
日付変わったけど余ってるし隆文の下のおくちで恵方巻き食べてみる?」
添田はふっと笑い問いかけてきた。なに言ってだこいつ。空いた口が塞がらない。
「食べ物で遊ぶとか最低だし俺にしか実害ねーじゃんか」
添田のその発想に溜息しかでねぇわ。
「だめかー。上下のおくちでもぐもぐしてる隆文見たかったのに」
「気持ち悪いマジで無理」
「あーあ、せめて『りょーたのおっきい恵方巻き食べたいから普通の恵方巻きはちょっと…』とか『一緒に恵方巻き使って上のおくちでポッキーゲームしよ』とか上手い誘い方できねーかな」
スケベオヤジでもそういう考え方には至らないと思う。
「俺がそういう誘いすると思ってるのか?」
深く溜息をつきつつ添田をまたいでサイドテーブルに手を伸ばす。
「いや?隆文はそもそもそういうこと思いつかなさそうだし」
「分かってんなら言うなや」
添田の煙草を箱から取り出す。ラスト一本。
しかし、横に置いてあったライターは火がつかない。使えねぇ。
「おいこら添田ライター切れてるじゃねーか」
不機嫌な俺の頭を撫でる添田。
「あーあ、俺の最後の一本なのにー。
はいはい、火どうぞ」
そのままずいっと煙草を口にしたまま顔を近づけ煙草の先同士を合わせた。ジリッ、と火が付く感覚。
俺と添田はセフレみたいなものでもあるが、たまーにやるこの行為が地味に好きで煙草を吸いはじめたのは添田に伝える気はない。

「…げっほ!お前これメンソールじゃねぇかいい加減にしろ!」
「いやお前、箱確認しなかったじゃねーか」

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