「古市一生のお願いだから、」
男鹿はそう言い手を合わせた。
「ちょっとこれに着替えて今から付き合ってくれ」





好きだからすきだから何が悪い





「絶対やだ!無理!」
「いやホントまじ頼むわ古市!お前にしか頼めないんだって!」
「俺じゃなくともヒルダさんもクイーンも居るじゃねぇか!…いやそれも俺としては困るけれども!!」
「ヒルダには断られたし邦枝も用事あるみたいだったし」
新作のチケットを貰った映画が見たいらしい。しかも―
「クイーンに聞いてないんだろ実際は!!何だよお前俺差し置いてハーレムとか…めんどいから適当に美咲さんに借りたんだろこの服!!」
男鹿の渡した紙袋の中には女性物の服。あろうことか男鹿は古市にこの服を着て映画他に付き合えとの事だった。
「何で女物着せようとするわけ?!俺男だから!正真正銘!!」
「だってこれラブストーリーだぞ?男二人で見に行くとかないだろ」
見せてきたチケットの映画のタイトルは確かに新作のラブストーリー映画と近頃話題になっている奴だ。だからって女装は…
「姉貴もう見たらしいからさ、俺が思い立ったのはお前位しか居なくて」
だからって親友に女装させて映画って無理ありすぎだろ。古市は溜息を吐く。
「行かない断る」
「分かったじゃんけんな」
「その流れおかしい!!」

結局5回先取のじゃんけんに全勝した男鹿は古市に女装を強要した。
「ぜってーこれおかしいって…!!」
顔を耳まで真っ赤にし恥ずかしげに言う古市。
前が結構開いており、白地に花柄のワンピースのスカート部分の裾を引っ張る。
踵の低いサンダルに思い切り膝上のスカート。このスカートのお陰で女物の下着も付けられて男の古市には屈辱でしかない。
しかも加害者の男鹿は
「やっば古市!!」
と笑い尽くしている。そして耳元で
「超可愛い」
と低く囁かれた時にはもう堪らなかった。
「だから俺男だって!」
「いや、今10人の男に見せて一体何人が今の格好男がしてるって思うかね?いないぞ」
それを言われると閉口してしまう。しかも古市は美咲に髪のセッティングと化粧までされてしまったのだ。石矢魔生に会ってもすぐに古市だとは分からないだろう。
「さぁ、行きましょうか」

すれ違う人の目線が痛い。実はバレてたらどうしよう。不安になっていると、男鹿は手を握り早足で歩き出した。
「ちょっ、男鹿、はやいって…!!」
しかし男鹿は何も言う事なくさっさと歩き出す。握り締める手も痛い。
「…悪りぃ、周りの男共の目線が苛つくから」
よく見ると、すれ違う男は皆古市を振り向く。と、そこへ―

「よう、男鹿じゃねぇか」
声を掛けてきたのは東条だった。後ろには相沢も居る。
「お前らも映画か?」
東条の質問に肯定する男鹿。
「俺も今からだ」
えっまさか恋愛物を…!?と思っていたら東条の手にあるパンフレットは『チビ猫タマの大冒険』だった。これに付き合わされる相沢を少し可哀想に思う。
「つかこの子誰」
その相沢がもっともな質問をした。
「あぁ、彼女」
「はぁ!?」
そんなん聞いてない初耳だ初耳!!
「へー可愛い」
「ちょっ…!!」
あまりの突拍子のなさに焦って顔が真っ赤になる。
「うん、古市に雰囲気似てるよな」
「古市の妹」
いけしゃあしゃあと嘘をつく男鹿にこちらの焦りはMAXだ。でもここは上手く取り繕わなきゃ、女装だなんてばれたくないし…!!
「古市、貴子です…」
「へー、きこちゃんか、あの古市にこんな可愛らしい妹居るなんて知らなかった」
東条はそう言い古市の頭を撫でた。悪意はないと知ってても男鹿は古市の腰を掴み東条から遠ざけた。
「男鹿っ…!!」
「もうそろそろ俺ら上映時間始まるから」
「おう、また喧嘩しような」
東条は笑顔で手を振った。

「おい男鹿あんな話聞いてないぞ…」
「悪いな、何かイラッと来た」
その後の映画も男鹿は終始不機嫌でただひたすらポップコーンを食べるだけだった。
そのあまりの苛立ち加減に古市は気まずくジュースを飲む羽目なったのだった。
映画の内容なんかこれっぽっちも印象に残らなかった。

「帰るぞ」
「えっ男鹿…」
映画が終わるや否や男鹿は古市の手を引き早足で歩き出す。
「周りの男共が皆古市の方見てきて苛つく」
何だその無茶苦茶な理由!こっちは付き合わされてこんな屈辱的な格好までしてるというのに!!と言いたい所だがやはり公衆の面前でこういう話題も出したくない。古市は我慢する事にした。しかし、
「男鹿、いたい…」
握り締める手首が本当に痛い。訴えて漸く気づいたのか、男鹿はごめんと謝って指を絡めてきた。
いや…そんな事されても困るんだけど…
古市は真っ赤になって男鹿の手を握り返した。その光景は端から見たらカップル以外の何者でもない。

「…っつ…!!」
帰り道、コロッケを買って食べてると古市は見覚えのある人を見つけ身構えた。
「…よう、男鹿じゃねぇか」
「高島、先輩…!!」
高島が集団を引き連れやってきた。
「…おい、お前俺の事知ってんのか?」
そう聞かれてから古市は自分の失言に気が付いた。これはまずい…!!
「男鹿お前彼女作るような奴だったか?“貴之くん”はどうしたよ」
はっと乾いた笑い声を出す。そして、
「嬢ちゃん古市によく似てんな…妹か?あのヘタレの」
「うるせー古市についてお前がとやかく言うなあと触るな」
言うなり男鹿は古市に触れようとしていた高島を引き離した。
「お前ホント警戒しろよ!!」
「うるせー何で俺が…!!」
文句を言おうとした古市を男鹿は即座に抱き留めた。
「可愛いからに決まってんじゃねぇか…!!」
あまりの殺し文句に古市はもう何も言えなかった。



おまけ
「ヒルダ、魔界に女体化の薬ってないのか?」
「…それをしてどうするつもりだ?」
「古市を嫁がせる」
「お前阿呆か!」
「あ、それか魔界のあの医者だったらどうにかなるだろ?」
「俺絶対嫌だからな!!」

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