「テツヤ」
「なんですか」
「彼氏がほしいです」
「…はあ」

そうですか、なんて眉一つ動かさず、読書に勤しみ続ける幼馴染は、相変わらず冷たい。酷いよね、わたしはこんなに必死だっていうのに。夏が近づいてきたということで、わたしが愛読しているファッション雑誌にもそういった、夏休みは彼氏と海に花火に遊園地で充実しちゃおうなんて特集が増えてきた。彼氏いない歴イコール年の数なわたしは毎年毎年この手の記事に対して嫉妬の炎を盛んに燃やしていたのだが、そういう見栄っ張りはそろそろ疲れた。今年こそは、雑誌越しでわたしに笑いかけるこのモデルさんみたいに充実した夏を送ってやろうと決めた。……のが、ついさっき。
テツヤさん、誰かバスケ部の友達紹介してくれませんかね、なんて頼んでみたのだが、とうとう応答はなかった。ちえ、あんなに部員がいるんだから、一人くらいいいじゃないのよ、けち。けーち。ごろごろとその場でローリングすると、僕のベッドぐちゃぐちゃになるじゃないですか、やめてください。わりとマジな顔で怒られたので、もういっちょけちと呟き、おとなしく体育座りにシフトチェンジ。テツヤは怒ると怖いんです。

「…そんなに彼氏が欲しいんですか」

読書も一段落ついたらしい。ぽん、と音を立てて分厚い本を閉じたテツヤは、ちょっとうとうとしかけていたわたしをようやく見やる。欲しいです。力強く頷いてみせると、じゃあ、黄瀬くんなんてどうですか?仲いいでしょう、なんて返された。確かに黄瀬とは仲よしだけど、わたしあいつのことそういう目では見れないんだよね。贅沢なこと言ってるって分かってるんだけど、黄瀬とキスとか、デートとか、それ以上のことをするところなんて、ちょっと想像したくない。それならテツヤとするほうがずっとマシだよ。なんて、きっとものすごく不快そうに歪めてるんだろうな、そう思いながらも見たテツヤの顔は、いつもとちっとも変わらない。ありゃ、拍子抜け。
そうですね、テツヤはこくりと頷く。え、なにが?わたしがそう聞き返すよりはやく、テツヤは一歩ぶん身を乗りだす。ぐんと近よった彼の顔は、いつもとは違って見えた。ガラス玉みたいな空色の目、薄い唇、さらりと一房、落ちた髪の毛。なんだかみんなきらきらしていて、わたしはすこし、息を呑んだ。あれ、あれ、なんだこれ、ちょっと顔が、あついかも?

「僕も、あなたとならそういうことしても構わないと思ってたんですよ」

テツヤのこんな顔、しらない。わたしは真っ赤になったまま、それでもなんと言えばいいのかなんてわからないから、ぱくぱくと口をうごかす。金魚みたい。テツヤはそんなわたしをくすりとわらってみせる。

「そういうわけで、僕にしてみますか」

ね?、そう言って彼はわたしの頬に手を滑らせる。その指は、いつかの記憶にあった彼のものよりもずっと長いし、節々がごつごつと硬い。わたしのものとは大違い。幼馴染とおもっていた彼は、いつのまにか、男の人になっていて、そうしてわたしを、すくいあげていったのだ。

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