In Matsuno's case




半田が仕入れてきた色恋沙汰をきっかけに、部活中にも関わらず、男だらけのむさ苦しい恋バナがヒートアップしてしまい、誰それが付き合っただの初体験がどうだのと、転々とする話題が、たまたまクラスの女子番付に傾いたときのことだ。


「確かにみょうじは見た目でいったらダントツだけどさ、超ビッチらしいじゃん」


本人が居ないのを良いことに、好き勝手言っては、周りがそれに賛同する、その繰り返しだったはずが、この半田の発言で一人だけおかしな反応を返した奴がいた。というのも、僕の隣で意外と興味津々な様子だった風丸が、飲んでいたドリンクを吹き出したのだ。


「ちょ…大丈夫、風丸?」
「ゲホッ…あ、ああ、大丈夫…」


気管にも入ってしまったらしく、暫くの間ゴホゴホとやっていたのだが、「あいつ、ビッチとかじゃ、ないと思うぜ」息も整わないうちに始めたのは、みょうじビッチ説の弁明だった。「あの警戒心で、誰かに体を許すなんて、考えられるか?」確かに、みょうじにはどこか近寄りがたい雰囲気がある。言い出しっぺの半田も、「確かに…」なんて呟く始末だ。
結局、出所が半田の説なんて軽々と論破され、みょうじはビッチではないと結論づけられた。健全な男子中学生たちはいそいそと次の噂へ興味を向けていたが、僕はそんな下世話な集団から少し外れて、安心したようにため息をつく風丸をしっかり見ていた。
…怪しいなあ。





In Handa's case




炎天下での部活を終え、汗でびしょびしょになったユニフォームを引っ剥がすべく、早足で部室へ向かう。「あっちいなー」「そうだなー」隣の風丸と他愛のない会話を交わしながら、制服に腕を通したところで、風丸の耳元で何かがちかりと瞬いたのを見てしまった。
間違いない、ピアスだ。
当然校則では禁止されているそれを、よりにもよって優等生の風丸が、どうして!?「そ、そのピアス、どうしたんだよ!?」意図せずとも内緒話のトーンになってしまった俺の質問に、「あ、ばれたか」そう言って笑った風丸は、「ちょっと…気分転換」何でもないことのようにさらっと返すと、円堂に呼ばれてその場を去ってしまった。
にしてもあのピアス…どっかで見たような気が…。


「わあ、これはもう決まりだね」


急に後ろから聞こえた声に、驚いて振り返ると、居たのはマックスだった。「決まり、?何が?」おそらく風丸のピアスについての発言だろうが、意図するものは、さっぱりわからない。首を傾げる俺に、「バカ半田、気付かなかった?」そう言ったマックスの顔は、割と本気で俺を馬鹿にしていた。


「何だよ…分かんねーよ…」
「…あのピアスさあ」
「ああ」
「みょうじがつけてるのと、色違いだよね」
「……………エ!?」


それって、まさか…?





In Kino's case




「木野ちゃん、髪とめるゴムみたいなの、持ってない?」


わたしのことを"木野ちゃん"と呼ぶのは、一人しかいない。後ろから聞こえた声の主はやっぱり、ななこちゃんだった。


「ゴム…かあ…ピンならあるんだけど…」
「そっか…」


困ったなあ、そう言って頭をかいたななこちゃんの、綺麗な茶髪がさらさらと揺れている様子に、やっぱり美少女だなあ、なんてしみじみ思ってしまう。
確かにちょっとだけ無愛想なななこちゃんは、よからぬ噂をたてられてしまうこともあるけれど、本当は不器用なだけの、優しい子。「ごめんね、力になれなくて…」そう言うわたしに、「いいのいいの、こっちこそ突然ごめんね」笑いながらそう返してくれる。


「そこらへんの女の子から借りてくるよ」
「わたしも、持ってる人探してみるね」
「ありがと!それじゃ!」


そうしてななこちゃんと別れた後、結局ゴムを手に入れられなかったわたしは、しばらくの間、申し訳ない気持ちでいっぱいだったのだけれど、たまたま廊下で見かけたななこちゃんは、頭の高い位置でポニーテールを結わえていた。どうやら、無事に借りることができたらしい。
一安心して廊下を進んでいると、見慣れない生徒とすれ違う。まさか2年生にもなって一度も顔を合わせたことのない生徒がいたのかと、驚いて思わず振り向いてしまったわたしは、水色の髪を揺らしながら歩き去っていくのが、風丸くんだと気付く。いつもポニーテールの髪の毛は、珍しく下ろされていて、それで気付けなかったのだ。
そういえば、ななこちゃんの髪を結っていたあの赤いゴムは、風丸くんのものとそっくりだったなあ…。





In Endou's case




「ちょっと水道行ってくる」


部活の休憩中、風丸はそう言って輪を離れていった。確かに、今日は滅茶苦茶な暑さだし、俺も水を浴びて来ようと、もう見当たらない風丸の背中を追うべく立ち上がれば、「今は、よした方がいいんじゃない?」マックスに止められ、どうしてかと首をひねる。


「密会かもしれないでしょ」
「ミッカイ…って、何だ?」
「…」
「ん?」
「なんでもないよ…」


引き止めて悪かったね、そう言うなり一変して俺を促すマックスを、変な奴だなあと思いながらも、「じゃ、行ってくる」そう言い駆け足で水道へと向かう。走ったことでさらに浮かんだ汗を拭いながら、辿り着いた先には風丸…と、その隣には見知らぬ女子生徒が立っていた。


「よくやるね、こんな暑い中…」
「まあ、好きだからな」
「…はいはい」


確かに風丸とは仲が良いが、だからといって交友関係を全て把握しているわけではない。女子とも仲良かったんだなあと思いながら、声をかけようと近付いたところで、さらに聞こえた会話に足が止まる。


「部活終わったら、あの空き教室に行けばいいんだよな?」
「ん…珍しく待っててあげるんだから、急ぎ足で来てよ」
「分かってる」
「よろしい」
「で…俺んち今日、親居ないんだけど」
「…ムッツリが」
「…うるさい」


あれ?この会話、仲良いで済ませて、良く…ないよ、な?全てを理解した俺は、ますます火照った顔でグラウンドへと走り去る。そんな俺を見つけたマックスが、「だから言ったでしょ」呆れた様子でそう言ったことで、やっぱりあれは、そういうことなんだなあと再確認した。





In Kazemaru's case




そもそもどうして俺たちの関係をひた隠しにしているかといえば、あの日、俺の告白に二つ返事で了承したななこが続けた「他人に邪魔されたくないから、周りには内緒にしよう」の一言が原因だ。
最初の頃はやはり、言えないもどかしさにやきもきしたり、本当は俺のことなんて好きではないのかもしれないと悩んだこともあったが、今となっては、バレるかバレないかのギリギリを共有している状況に、かえってそそられている始末だ。
そういうわけで今日、隣町の映画館に行くという、新たな瀬戸際に自分達を貶めているわけだが、駅までの道中、隣を歩くななこが急に俺の腕を引いたことで、直進するはずだった道を右折するはめになる。


「どうした、急に」
「ついてきてる」
「え?」


そう言って足を止めたななこに、まだどういうことだか分からない俺は疑問符を飛ばすのだが、答える素振りなどいっさい見せず、じっと曲がり角を見つめている。つられて俺の目線もそこへたどり着く。
なんだか、聞き覚えのある声が聞こえたと思いきや、角を曲がってやってきた集団は、円堂をはじめとするサッカー部の面々である。「、何してるんだ!?」慌ててそう聞く俺に、全員が全員バレたかと残念そうに顔を歪めた。


「…水臭いぞ、風丸!」
「は?」
「いつからそういう関係になったんだよ!しかも、あのみょうじと!」
「い、いや…」


質問責めを適当に受け流しながらも、背中を伝う冷や汗が止まる気配はない。何がどうして知れ渡ったのやら、隠していたつもりのこの関係は、ひとまずサッカー部の中では常識と化しているらしい。
ちらりと伺い見た隣のななこといえば、はあ、とため息をつくと、「仕方ない、白状しようか、一郎太」さらりと許可してくれたのだった。…てっきり「約束守ってくれなかったんだ」なんて、別れを切り出されるものだと思っていた俺は、拍子抜けしてななこをまじまじ見返してしまう。


「何かな、その顔は」
「いや…だって、みんなには内緒にするって、言ってたから…」
「…我慢できなくなったの」
「え?」
「だから!これがわたしの彼氏ですって、みんなに言い触らしたくなっちゃうくらい、一郎太のことが好きになったって、そういうこと!」


そう言い切ると、真っ赤になってしまったななこを、抱きしめてやりたかったのだが、この大人数の真ん前でそんなことをすれば、本気で嫌われかねない。…仕方がないので、調子に乗って冷やかし始めた半田を怒るに留めておくとする。
今だけは。







あみさんへ
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