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僕のかわいいそばかすちゃんに告ぐ

今日の仕事は終わった、と一息吐き。
金曜日の夜の浮かれきった街を通り過ぎ、住み慣れたアパートの階段を昇る足取りも、まるで機械のようにぎこちない。

思いの外、疲れきった自分の体をなだめすかしてやっと辿り着いた自室のドアの前。
…ドアの隙間から、微かに灯りが漏れている。

「…来るなら事前に連絡してって言ったでしょう?」
「ああ?悪ぃ悪ぃ」
「…」

悪いと謝りながらも心からの言葉では無いと分かりきっていたので、私はわざとらしく深い溜息をついた。

リビングのソファにまるで自分のものかのように、仰仰しく腰掛けていた男は途端に不機嫌そうな顔をする。
ソファの正面にあるテレビはサッカーの試合が映し出されていた。部屋の主が不在の間、彼はまた好き勝手にしてたのだろう。その証拠にサイドテーブルには食いかけのカプレーゼとワインがあった。
…思わず舌打ちをしたくなった。

私の今にも噛みつきそうな顔をみてか、男はにやにやと締りのない顔になった。

「相変わらず忙しいんだなお前は」
「…誰かさんと違って真面目ですからね」
「へぇ」

男の顔を見ているとまた怒りがフツフツと込み上げてきそうだったので、無言でリビングから出て隣の寝室に向かった。
男の名前はホルマジオといい、数ヶ月前、5月のある晩にバルで出会った。

当時、新天地で新しい職に就いた私に声をかけてきたホルマジオは、それから私を見かける度に呼び止めて話をしてくれた。まあ後は想像に容易いだろう。自室に招くまで親密になれるとは思わなかったが。
たまにふっと鼻につく香水や煙草の匂いは、彼が遊び人だと気づかせた。

2つ年上の彼が、普段どういう生活をしているのかは分からない。

寝室のクローゼットにスーツを片し、部屋着に着替える。次に化粧を落とそうとバスルームに足を向ける。
このルーティンは誰にも崩されたくなかった。内心ホルマジオがまた邪魔をしないかと思っていたが、彼はテレビに釘付けにされているようだった。
その様子を見つつ、私は浴室の中に入った。タイル張りの床は冷たかった。

蛇口を捻ると出てくる水も冷たく悴んだが、眠気覚ましにいいと顔を洗う。クレンジングオイルをつけて、さっぱりした気持ちになる。

ほっとするのもつかの間。
背後からぬっと現れた腕に、夢心地から現実に引き戻された。音も立てずに忍び寄った人物に、思わず肩を震わせる。

「…!!!」

言葉にならない叫び声を出す私を見て、ホルマジオはくつくつと喉を鳴らし笑う。

「…もう!ホルマジオ、びっくりさせないでよ!」
「だってよ〜いつになったら、お前が構ってくれんのか寂しくてよ〜」

ホルマジオはそう言うと、身を屈んで私の耳元に唇を寄せて歌を歌い始めた。くすぐったくて身をよじろうとする私を鏡越しで笑っている。
…何だかんだと言いつつ、彼の歌声は心地よい。


されるがままの私を見て、ホルマジオは歌い続ける。時々、頬にキスしたり、私の手を絡めて腹の前で握ったりして、ゆったりとした空気が流れる。

「…機嫌直ったか?」
「…うん」

彼の言葉に素直に頷く。
すると彼は私の身体を回転させ、お互いを向き合うようにさせる。
ちょっと揶揄いを含めて、しかしどこか愛おしいものを見つめるかのような彼の表情に

「…なに?」

と、私は不安げに言ってしまう。

「…また機嫌悪ぃなぁ。なんだよ、せっかくキスしてやろうと思ったのに」
「いつも好き勝手にしてるでしょ?

…ちょっと恥ずかしかっただけ」

言い訳じみた言葉を聞いて、ホルマジオは呆れたように微かに笑って、私のそばかすに触れてキスをする。
幼さを残すそばかすは嫌いだったが、いつだったかそれはお前のチャームポイントだよと彼が教えてくれてからは、好きになった。

ホルマジオがキスをしながら耳や首元を触る感覚に、少し身体を震わせてしまう。
こうして彼と共に夜を過ごすことで、私はまた彼と会いたくなってしまうのだ。

題名:華さま


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