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愛は泣くもの

ぶどうが丘高校の一年生の教室は、大抵の場合、縦四列で成り立っている。

廊下から四列目の一番後ろの窓際の席が、仗助の席である。
他のクラスメイトよりは背丈がある仗助だと、必然的に指定席はその場所になってしまう。
不満はないし、むしろ陽の光が気持ちよく転寝するのに最適である。

それに、仗助の席から向かって二列目の一番前の席に座る美登里の様子がよく見える席である。
授業中に真剣な眼差しで教壇に立つ先生を見つめたり、休み時間に友達と話す朗らかな彼女の姿を仗助は目で追ってしまうことが増えた。

彼女のくるくると変わる表情を見るにつれ、仗助は表情豊かな彼女にいつどんな時でも、笑っていて欲しいと思う。
悲しい思いをさせたくない。
出来れば自分の目の届く範囲では、彼女にそんな思いをさせたくないと願うようになってしまった。
初めて彼女の泣く姿を見た時からずっとだ。

他人である自分に心配をかけさせまいという彼女の気遣いに、仗助は健気だと思うどころか誰が彼女をそんな目にあわせたのだろうと腸が煮えくり返るようだった。

大人しく真面目な彼女は、時折頑固な性格が顕になる。それが弱みを見せまいと、悲哀を押し殺すように唇を噛み締める。
そんな彼女が自分と話している間に、堰を切ったように涙を流すその様子は、仗助の胸を締め付けるような痛みを残す。

「…私、仗助君がいる時だけ悲しくて泣いたりするし、たまに仗助君の言っていることに対して反論するけど、それって全部仗助君が受け止めてくれるからって信じているからなんだよね」
「…そっか。
それくらい俺って信用されてんのねー」
「だから、仗助君もいろんな表情を見せて欲しいな。…笑ったり悲しんだり、怒ったり…。
…我儘なことを言うけど、私以外にはあまり見せないで」

美登里の口から飛び出た意外な言葉に、仗助はぱちくりと瞬きをする。
美登里は少し頬を赤らめながらも話を続ける。

「…仗助君には、どんな時にもありのままを見せて欲しいと思うよ。
かっこいい仗助君も、かっこ悪い仗助君も見てみたい。

私、昔は泣き虫だった。
いつからか泣くのはみっともない、我慢するべきだと思ってたんだけど。
仗助君の前だとありのままの自分をさらけ出せる。
…それは仗助君が優しいからなんじゃあないかなぁって思う。ちゃんと私の話を聞いてくれるから、安心していろんなことを話しちゃう」
「…まあ、あまりかっこ悪いとこは男のプライドに傷がつくから見せられねーって思うけど。
美登里ちゃんの前だからこそ、素の自分を押し出せるって思う。

…だから、美登里ちゃんもオレの前では我慢しないでよ。我儘も言っていいし。
…俺以外の奴の前では泣かないで。」

仗助は美登里を自分の腕の中に閉じ込める。
美登里が甘えるように、仗助の胸に凭れ腕を背に回す。
その様子にどこか満たされた気持ちになった仗助は、彼女を護る為にどんな手段を使ってでも守り抜くと誓うのであった。


題名:華さま

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