故人を送り出した後、忙しなく雑用で動き回るのは悲しみが生者を押しつぶすことがないような状況を作るという意義がある。
胡蝶姉妹の屋敷には、ひっきりなしに弔問に訪れる客が多くなった。弔問客はみな鬼殺隊に属する隊士だった。如何に、カナエが人望が厚く、信頼を寄せられる人物であったのが分かる。
早苗はカナエの生前の働きを知ることになるが、誰某といった情報に疎くその度にしのぶやアオイに耳打ちされ挨拶する流れになった。
(早苗の素性はあくまでもカナエの身内ということに留まり、刀鍛冶の身分は明かさなかった)
そして、ある人物と玄関先で対面するとは早苗は露ほども思っていなかった。
「…杏寿郎!」
早苗に呼びかけられた人物は、目を丸くする。
「… 早苗か?身なりが変わったので分からなかった」
「ああ。手紙で書くと長くなるし、どうせなら次に会った時に驚かしてやろうと思ってたんだ」
「うむ!俺は大層驚いた!」
「それは何より」
「おい、煉獄。玄関先でだらだら話しこまねぇの」
久しぶりの友との再会に喜びつつ、新たな人物の訪問に早苗は意識を向ける。その人物は杏寿郎の後方にいたらしい。
鴨居をくぐって姿を現した人物は、早苗や杏寿郎よりやや背丈が大きく、早苗は彼と目を合わせる為久しぶりに見上げなければならなかった。
「ああすまないな、宇髄。
久方ぶりの友との対面故、話が長くなってしまう」
「…お前の知り合いとはいえ、地味だな」
宇髄という男はじろじろと見下ろした末、こう早苗を評価した。
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三日間の服喪期間が終わり、早苗は再び里に戻ってきていた。
時々生前のカナエ、そして母の面影を思い浮かべてしまうが、悲しみに打ちひしがれている暇はないと己を律した。
黙々と手を動かし、自らの手で何かを作りだすその瞬間が早苗にとって心の支えになった。
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