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「#幼馴染」のBL小説を読む
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初めて鍔を自製してからというもの、早苗は一日最低一枚は鍔の図面を書いてみようと思った。
最初の数日間は、想像するだけでも作りたくて堪らないという感情になる程、思い浮かべられた。しかし、人間の記憶というのは脆いもので、数日経てばぼんやりしか思い描けないということを実感した。

早苗がそれを最初に相談したのは、小鉄の父親である。
刀鍛冶師の鋼鐵塚や鉄穴森など親しい者に相談するのもいいけれど、他の視点から探ってみようとした。

絡繰技師の彼は、日がな一日技巧を施した創作物を生み出している。
早苗は初めて彼の作品を見た時に、創作物が何とも滑らかに動いている様をみて感激したものだ。
それは小鳥を模したもので、螺子を巻くとぱたぱたと羽根が動く。螺子と繋がる麻の紐が動力である。感激する早苗に小鉄の父親は、取るに足らないと謙遜していた。

早苗が改めて彼を訪問すると、再び同じことを口にする。

「こんなもの作ってどうするんだと言われるのが大半だ。
ほら、ここは刀鍛冶の里だろう?遠いご先祖様の代から住んでいるけれど、道楽だと思われているみたいでね」
「…道楽なんかじゃないですよ。
頭を捻って捻って作り出したものが、そんな言葉で片付けられるなんて…酷い」
「…職人は、自負しないとやっていけないからなぁ。そう思えば、みな孤独なものさ」
「…」
「そう言えば、何か俺に相談したいことがあったんだろう?」

小鉄の父親の言葉に、早苗は頷く。

「次から次へと、図面の原案が頭に浮かんでは消えてしまうんです。
覚書に記してはいるんですが、どうも鮮明に残らなくて…」
「なに簡単なことさ。

常日頃から物事に興味を持つ。これが物作りをする上で一番大事な事だ。
どんな些細なことでも、いつかは必ず役に立つ。この小鳥だってそうだ。翼はどうやって動かすのだろう。どうして、という問いかけが必要だ。そうすれば記憶に留まりやすい」
「…成程」
「後は…美術品だけじゃなくて、自然の美しさに惹かれる心を持つとかかなぁ…。」



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