5月も終わり、6月に入ると東北地方に位置する杜王町でも気温が上昇し、時には少し動くだけでも汗ばむ日が多くなってきた。
東京と違うのは、町のそこかしこに植えられている街路樹が暑さを和らいでくれている事だろう。樹木の下で深呼吸をすると、心も穏やかになれそうだ。
聞けば、この街路樹は遙か昔にこの地を治めていた武将の方針により植え始めたそうで、今現在でもこの地に住まう人々のシンボルとして愛されているという。
こうして杜王町のことを調べたり、あるいは友達から聞いたりして、自分なりに杜王町に愛着を持ちたいと美登里は思うようになった。
しかし人から道を尋ねられると、上手に道順の説明が出来るかというとまだ自信が持てない。
そういった状況で、美登里はやはりアルバイトをしたいと思うようになってきた。
学生の本分は勉強であるとわかっているものの、もう1つ別の社会を知る事で視野が広がるのではないかと強く思ったからだ。
意を決してアルバイトをしてみたいと父親に相談してみたが、案の定何故学業に専念しないのかと鋭い指摘がされた。
美登里が言葉に詰まり、口を噤んでいる所に母が助け舟を出してくれた。
「まあまあ、いいではないですか。お父さん。
何も勉強をないがしろにしてバイトばかりするということでもないですし。貴方が反対しても、私は賛成します。
なんなら私の働いているカメユーデパートで一緒に働くなら、貴方も心配しないでしょう?」
母の突然の申し出に美登里は一瞬唖然となったが、母の言葉通りデパートという場所であったら、初めてのアルバイトでもきちんとした研修を受けてもらえるだろう。と考えると、母の言葉に同意をするように頷いてみせる。
かくして、美登里は初めてのアルバイトでカメユーデパートを選んだ。
アルバイトを始めるにはまず面接をして採用されなければならないが、幸い母が勤務している場所である為、とんとん拍子で話が進み勤務する事となった。
勤務する日時は土日のお昼から17時までという条件つきだったが、美登里は学業と並行しても支障がないと考えた。
勿論、学業、アルバイトに励みつつ、承太郎から依頼されたジョセフや静のお世話も仗助、億泰、康一と協力し合いながら引き続き行っていく。
多分忙しくなっていくだろうけど、充実した毎日を送れそうだと美登里は思った。
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