レストランのディナーを終えて自宅に戻ると大人たちは就寝の準備を始める。
泊まりに来ている叔母は酔い覚ましをしてから入浴するというので、美登里が先に入浴する事になった。
シャワーを頭から浴びると、先ほどまで抱えていた鬱々とした気持ちもどこかに吹き飛んでしまうようだ。
気持ちも幾分楽になった美登里はパジャマに着替えるとリビングにいる叔母に一声かけ、髪をドライヤーで乾かす為また浴室に戻ってきた。
肩までつく髪の長さである為、傷まないようにしながらドライヤーの温風をゆっくりと髪にあてていく。
「----油断大敵ってぇ言葉を知っているか〜〜!!!!」
「…っな、何!?」
突然どこからともなく大声が聞こえ、驚いた美登里はドライヤーが全体的に熱をもったのを感じ思わず手を放してしまう。
ドライヤーを持っていた右手が少し火傷したようだ。
咄嗟に美登里は棚に置いていた眼鏡を取り今起きている事を確認する為に、震える手で装着した。
ドライヤーのプラグをさしているコンセントの側に、何やら鳥のような黄色い生き物がいる。
図体は美登里の身長の半分くらいの大きさであるから、決して大きいものではないが一体この生き物はどこから出てきたのだろう。
その生き物はふよふよと空中に漂いながら、余裕綽々といったように胡坐をかき不敵な笑みを浮かべ、こちらを見ている。
「一体全体何が起きたんだという顔をしているなぁ〜?
しかし俺はそうバカ丁寧に教えてやる程、親切でもねぇからよォ」
「…」
「まぁ俺が空条承太郎や東方仗助を付け狙っている事は教えてやるよぉ。
お前はアイツらとつるんでいるが一番弱そうだし…」
ククッと嘲るように笑い、じろじろと自分を眺めまわす生き物に美登里は不安だらけでおかしくなりそうだった。
話から推測するに、この生き物はスタンドで本体はどこかで操っているのだろう。美登里が単独でいる所を狙って襲ってきたらしい。
「な、何が目的なの…!?」
口を震わせながらやっと出てきた言葉にスタンドはにんまりと薄気味悪く笑いながら、直立で立っている美登里を一周し、最後には顔と顔を突き合わせるくらいの近さまで寄ってきた。
ぎょっとした美登里が口元を引くつかせるのを不敵に笑いながらも、スタンドは彼女の顔近くでぴんと指をはじいた。
その途端に、ぱちっと鋭い電流が頬に直撃し痛みを伴った。
思わず美登里は頬をおさえ座りこんだ。ぱっくりと傷が開き、頬から血がとめどなく流れてくる。
「目的ぃ〜〜〜!?
そりゃあお前さんのような弱い輩でも早くこの街から出ていかせてぇのよ。
敵さんは少ないのがイイからなァ」
スタンドがそう言う中で美登里は顔をうつ向かせるのみだった。
微動だにしない彼女をいい事にスタンドは戦意喪失したものとみて、またニヤニヤ笑いを浮かべる。やはり脅しにかけるのが最短だったと。
「そういうこった、早くこの街から出ていき…」
話が終わらないうちに首を強く後ろに引っ張られ、ぐっと息をつめてしまうスタンドに美登里は何事かと顔を上げる。
「な、何〜〜っ!?」
慌てふためくスタンドの背後に、黒い物体が貼りついているのがみえた。
その物体はスタンドの首をじわじわと絞めつけているのがみてとれる。
スタンドは目を白黒させると何の前触れもなく消失した。
恐らく逃亡したのだろう。
後に残った美登里はぱちぱちと静電気が指から発している事に気づき、目の前にいる黒い物体は自分の影であり、自分のスタンドであると分かった。
最近は自分が意識しなくても勝手にスタンドが出現するようになった。
それがいい事なのかあるいは何かの前兆であるのか美登里は先程の光景を思い出しながら、心がざわめき気持ちも落ち着きがなくなる。
「(自分はスタンドを自分だけじゃあなくて、他の人を協力したり助けたりする為に使いたいと思っているのに…、
あれじゃあ自分にその気があれば人に危害を与えられる事も出来るって事なのか…)」
自分に敵意を持つスタンドを追い払うという目的であったにしろ、自分の中に彼に対して明確な殺意があり、それがスタンドを介して顕になったという事実に美登里はとても混乱した。
脱衣所の戸を開けた叔母がぼんやりと無表情に突っ立っている美登里の頬に大きな傷がある事に気づき驚いた様子で自分に話しかけるのを、美登里はどこか遠い所から聞こえてくるような感覚で捉えていた。
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