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「…ただいま」
「あら、おかえり!…美登里ちゃんのとこ行ったんでしょ、泊まっていけばよかったのに」
「…明日バイトがあんだとよ」
「そうなんだ。…うまく行ってるの?」

仗助がリビングにいた朋子に声をかけると、こちらを振り返るなり、母はそんなことを言ってきた。
今までテレビを見ていたようで、テレビには彼女の好きなバラエティ番組が映っている。
まさに、美登里との仲が進展するようなことがあったからこそ、仗助は意表をつかれたように少し上ずった調子で言葉を発した。

「す、すげーいい感じだぜ!?」
「…なに、急に焦ってんのよ」

浮ついた様子を見せる我が子に、母は呆れたような目を向ける。

「美登里ちゃんはいい子だからね。
でも、いろいろ考えこんじゃうようなタイプだから、あんたが引っ張ってあげないとダメよ」
「…わかってるよ」

人を評価し育てあげる生業をしている朋子だからこそ、その言葉の重みが今はよく分かると仗助はそう思った。
友人の垣根を越え、お互いを慈しみ、愛するという行為は生半可なものではない、とも思うのであった。

唇を交わす以前に軽く抱擁をすることはあったけれども、美登里が持つ女性特有の柔らかさに、仗助は彼女が女性であると強く認識した。
そして繊細な身体に反して、底力のある魂を持つ彼女に仗助は改めて恋情を抱く。
例えば、暗闇に落とされたとしても這い上がってでも来るような、そんな見た目に反して力強い精神の持ち主だと美登里を評価する。

美登里がどんなことでも諦めずに対応しようとするから、仗助は危なかしく思える彼女の行いを正そうと反論するが、それは却って逆効果なのだと悟る。正そうとするから、お互い反発するのである。
それは根本的に、仗助が美登里のことをきちんと理解していなかったことにあると彼は考える。お互いが思う、正義の概念が異なるのだ。

彼女は救われるべき魂があると考えている。
それはやはり、彼女の父親の生い立ちが影響しているのではないだろうかと仗助は思った。

彼女の父親と一対一で対面をする機会があった際、彼の苦労話を聞いた。
物心ついた時から親はなく、盗みをするなど荒んだ日々を送っていたこと。しかし、ある人物のお陰で心を入れ替え、今は立派な職業に就いていること。

そんな彼の娘だからこそ、美登里は救われるべき魂があるのだという考えを持つのだろうと仗助は結論づけた。

尊敬すべき父が昔は悪党であったという事実は揺るがない。そのような事実を受け入れるには心の広さ、そしてその人そのものを愛する覚悟が必要だ。
まずはその人を知り、それから人となりを理解する。簡単なようであって、そうではない事柄だと仗助は思う。

仗助自身は罪を犯した魂はそれ相応の償いをすべきだと思っている。卑怯な手で人を傷つける輩を見ると腹が立つ。自らの能力を持って成敗したいと憤りを覚える。
しかし、美登里の父親がかつて行ったことに対しても鉄槌を下せるかと問われると判断をつけるのが途端に難しい。

美登里と仗助のように、人それぞれ考えが違うということの理解を深めるには、仗助自身も精神面で成長しなければならないという課題を課す。

「でもあんまり束縛してちゃ嫌われるわよ〜?程々にね」
「…俺、そんな重てー男じゃあねーし」
「あら、そう」

朋子は再びテレビに目を戻した。
移り気のある母に仗助は苦々しく思うが、ふと母も恋をして自分を産んだのだと思えば、彼女に美登里の姿と重ねてしまう。

「…今度は何よ?」

仗助の視線を感じたのか、訝しげにこちらを振り返る母に仗助は何でもないと返す。
しかし一方で、

「恋とはどんなものなのか」

と思いを馳せていた。


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