小説 | ナノ

南沢くんって意外に付き合うとつまらないね、と言われた。今まで同級生や下級生と付き合っていて、初めての年上という事に少しだけ戸惑っていたのかもしれない。それは認める。でも彼女につまらないと言われる筋合いはなく、人並みにデートして人並みにキスもした。彼女が求める行為も初めてではなかったから躊躇はなかった。少なくとも、彼女の事は本当に好き、という部類に入っていたからショックだった。メールもこまめにして、良い彼氏をしてきたつもりだったのに。
週末のデートが最後だった。「別れましょう」ただ一言。デートが終わったあと一言、踵を返して去っていく彼女の姿はなんだか遠くに感じた。別れてからはサッカーもうまくいかなくて、生活的にも荒れてきた。

勉強も、サッカーも、彼女が居るこの街では身にならない。しかもサッカー部では意味の解らない一年も入ってきて、もう居る意味もないように感じていた。
別に彼女を言いわけにするわけではないけれど、両親の転勤もちょうど重なってラッキーだ、とさえ思った。ごめんね、と何度も言われたけれどこちらの都合も良かったので笑顔で了承した。サッカーが出来るならどこの学校でもいいよ、と伝えて。
こうして月山国光への転校手続きも済ませて、いざ雷門を発とうとする時に彼女からメールが来た。どうしてアドレスを変えなかったんだろう、と憤りを感じてそのメールを開く。

引っ越すんだってね、向こうでも頑張って。応援してる。

たったそれだけの文章なのに、どうしてだか涙が出てたまらなくなった。最後に会いたかった、それほど彼女が好きだと思い知った。ただ一言、頑張ってね、と応援してる。これがこんなに嬉しい言葉だったなんて。
彼女に、もうすこし大人になったら、きっとつまらない男じゃなくなってると思うから。と返信をして、俺は新居へ向かう車へ乗り込んだ。

新居に着いて暫くした頃にまた彼女からメールがきて、「篤志はつまらない男なんかじゃないから。大人になってまだ私が好きだったら迎えに来て」とだけ書かれていた。ああ、また泣いてしまいそうだ。好きの気持ちを携帯にしまいこんで、グラウンドへ向かった。

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