小説 | ナノ

蘭丸くんはいつもそうだ。肝心な事は言ってくれない。私は彼の彼女のはずなのに、私はサッカー部のひとたちより蘭丸くんを知らない。キスもしたし、ハグもお泊りもした。けれど彼がささやくのは私への愛の言葉だけ。私は彼のすべてを知りたいのに。喜びも悲しみも怒りも、楽しかったこともぜんぶ解りたい。でも私は彼の事をなにも知らない。お前が好きだといくら言われても、彼はどこか悲しそうに私を見ていたのに。わたしは目先の幸せだけに囚われていたのかもしれない。

「蘭丸くん」
「うん?」
「あのさ」

サッカー部で何かあったの?と、そう聞きたいのに聞けない。蘭丸くんはサッカーの事を何も私に教えてくれないし、話そうとしない。ある日クラスがおんなじの神童くんに言われた言葉は、ただ霧野が悩んでるみたいなんだけど何か聞いてないか?である。多分それはサッカー部での事で、何も聞いていない私はもちろん「知らないよ」としか答えられなかった。私は本当に彼の彼女なのだろうか、悩みすら支えてあげられないのに。

「蘭丸くん」
「どうしたんだよ?」
「あのね」

勇気を振り絞って言った。何か悩んでいるのかと。そうしたら蘭丸くんは何にもないよと言って私の頭を撫でた。その顔すらかなしそうに見えてしまって、答えてくれない蘭丸くんに対していろんな感情が湧いた。顔を見ればわかるのに。聞きただしてうざい子だと思われたくなかったけれど、それでも蘭丸くんが大好きだと思ったらだんだん涙がこぼれてきた。蘭丸くんは焦ったように私の涙を指でぬぐって、笑った。

「あのさ」
「うん」
「暫く距離をおかないか」

衝撃が走って、顔に熱が上った。また涙がこぼれてきて、蘭丸くんにハンカチをかりた。少しだけ蘭丸くんのにおいがするハンカチだった。この問題が解決したら、必ず迎えにいくから。そう言われて。私はうなずいて涙を拭いた。

蘭丸くんと別れて二ヶ月経ってから、サッカー部がホーリーロードを勝ち抜いている、という噂を耳にした日、蘭丸くんに屋上に呼び出された。「また、俺と付き合って欲しい」問題が解決したからと。今度はおまえに心配はかけないから、泣かせないから。そう言って抱きしめられた。私はただ泣きながら、彼に抱きついて肯定を知らせる。彼は嬉しそうに、大好きだぜ、って囁いた。

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