小説 | ナノ

中学に入って初めて恋というものをした。小学校のときは「気になる子」程度の女の子は居たけれど、中学の先輩後輩っていう関係のもどかしさ、彼女と好きに過ごす事のできないっていう初めて感じるビターな感じは間違いなく恋だと確信した。秋ネエにも先輩の事を相談したことがある。先輩はよく三国先輩とか、南沢先輩なんかと一緒に部室でお話していてなかなか入る事ができない。でもグラウンドでは頑張ってって先輩に言ってもらえる一瞬がとても至福に感じていた。
メールアドレスを交換してはじめてメールした女子は、せんぱい。初めてひそひそ話をした女子も先輩。初めて恋をしたのも、先輩。先輩は俺の初めてをたくさん攫っていった。
俺も先輩の初めての何かがほしいな、なんて考えていたら、気持ちはどんどん胸に募っていった。ほんとうに、すきだなあ。

「あ、天馬くん」
「先輩!おはようございます!」

にっこりとあいさつしてくれる先輩は可愛い。隣にはたぶん、お友達だろう。知らない女のひとが居る。やっぱり先輩がいちばん可愛いなあ、なんて思いながらその先輩にも会釈をしておいた。
天馬くん、今から部室でしょ、一緒に行こうよ。そう誘ってくれる先輩の言葉に胸をおどらせて、俺は先輩の隣に落ち着いた。先輩は先輩でお友達にじゃあね、なんて言って俺と歩き出した。どうしよう、俺はいま先輩と隣同士で歩いてる。なかなかあるシチュエーションではないので緊張してしまった。

「先輩、」
「なあに?」
「え、えっと。その」

相変わらず先輩はにこにこして俺を見つめた。距離が近い。この気持ちが伝えられたらどんなに楽か、なんて考えたけれどやっぱり言えなくて。時間ばかりが進んであっという間にサッカー棟の前まで到着してしまった。

「天馬くん」
「な、なんですか」
「さっきのお話の続き、帰りにお茶しながらゆっくり聞いてもいいかな?」

言いにくい事なんでしょう、と先輩は笑った。たしかに言いにくいこと、だけれど。でも放課後、これはデートってとらえてもいいですか、先輩。笑顔の先輩の顔を見つめながら、お願いします、と元気よく答えた俺の顔はきっと赤かっただろう。放課後、告白できるかは俺の勇気にかかっているのだけれど、どうなったかは俺と先輩しか知らない秘密の時間。


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