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着替えを済ませた二人は手を繋ぎながら近くの街へと訪れた。
ハオは黒のTシャツにシンプルなズボン、螢は花柄のパステルブルーのワンピースを着ている。

“シャーマンファイト” も休むため、オラクルベルを外し、互いの持霊は荷物番代わりにテントへと残ってもらい、螢は媒介も置いてきた。
なにかあれば狐珀がやってくる事になっている。(相当ご立腹だったが、そこは螢がなんとか説得した。)



「マント以外の格好、初めて見たかも」

「そうだね」

「…Tシャツは私のなんだけどね…」

「はは!僕は着なくてもよかったんだよ?」

「ダメ!捕まっちゃうでしょ!」

「はははっ」



着替えを済ませたと言ってテントの外へと出てきたハオはマントを羽織っておらず。
そこまではよかったが、装飾品の少ないズボン以外なにも身に纏っていなかったのだ。
螢は悲鳴に近い声を上げ、己の荷物からゆったりとしたTシャツをハオへ投げ渡した。

これから人のいる場所へと向かうのに、そんな格好のままでは色々と問題がある。
適度に引き締まった白い肌は、とにかく目に毒だった。



「もう… とりあえず、ご飯食べよ?」

「ああ」

「好きなもの頼んでね。今日は全部お姉ちゃんの奢り」

「……“姉” とは思ってないけど、甘えるよ」

「…いい加減、お姉ちゃんって認めてくれてもいいのに…」

「イヤだね。モーニングセット、エスプレッソで」

「私はサラダモーニング、ブラックコーヒーでお願いします」

「意外だな。甘いのが好きなのかと思っていたよ」

「ラテとかも好きだよ。でも朝に飲むならブラック。すっきりするから」

「へぇ」



“奢り” と言われた時、一瞬だけハオは動きを止めたが、すぐに笑顔を浮かべて会話を続けた。
螢は知らないが、ハオは金を一切使わない。部下達にしても同じだ。
欲しいものは奪う、料金は踏み倒す、という生活をしている。
絶対にバレてはならない、とハオは密かに心に決めた。


ハオがそんなことを考えているなど知らない螢は、無料配布されていた観光マップをテーブルに広げパラパラと捲っている。
運ばれてきた料理を食べながら、どこに行くか相談するつもりなのだ。



「どこ行こうか?」

「デートっていうと、どんな所が “普通” なんだろうね」

「……デートしたことないからわからない」

「………」

「………」

「……プッ」

「笑うなー!」

「はは… ごめんごめん。なら、螢は休日に葉と出かけたりしてたかい?」

「修行ばっかしてたけど、東京に出てくる前はたまに」

「その時はどんな所に行ってたんだい」

「えっと、神社とか湖とか、ちょっと遠出して映画とか遊園地とか水族館とか…」

「…意外と出かけてるね」

「…本当だね」



少年の質問に答えようと考えていた少女の心には、たくさんの思い出が映し出された。そのことにハオは苦笑する。
螢が葉と出かけた場所と同じような場所全てに行ってみたかったのだ。自分との思い出を一つでも増やしたくて。

しかし、到底 1日で回りきれる数ではない。
潔く諦めて、観光マップを眺める。



「…あ」

「ん?」

「ううん、何でもない」

「…僕に隠し事をしようとしてもムダだよ?」

「う……」

「僕は君とゆっくり過ごせればいいんだ。行きたい場所があるなら、一緒に行こう」



優しく微笑みながら話しかける。それは本音だった。
特別行きたいという場所がある訳ではない。一緒に居たいだけなのだ。



「…うん。ありがとう」

「礼を言うのは僕だよ。君の時間を貰ってるんだからね」

「いつもは私がハオの時間貰っちゃってるもんね」

「僕が好きでついていってるんだよ」

「ハオは……本当に優しいね。そういう所、大好きだよ」

「…君の方がずっと優しいよ。ほら、どこに行きたいんだい?」

「えっとね…ここ。硝子美術館。キラキラしてて、宝石みたいだなぁって思って」



螢は指を差し、困ったように笑った。



「なら、次はここに行こう」

「ありがと」

「入場料とか必要みたいだけど」

「大丈夫!バイトでお金貯めてあるから」

「……ああ、そういえばカフェで働いていたね」

「うん。家賃安かったし仕送りもあったんだけどね」

「僕は心配で仕方なかったよ」

「明るい時間しかバイトしてなかったよ?」



小首を傾げる螢にハオはまた苦笑する。

少女は容姿も性格も良いため、どこに行っても誰からも好かれる。加えて頭も良く、何事も器用にこなす。
老若男女問わず人気があり、告白する者も多かった。



「前にも言ったろ?悪い虫がつきそうだって」

「……私、誰ともお付き合いするつもりないよ?特にシャーマンじゃない人とは」



螢にしては珍しい冷めた瞳でポツリと呟く。
その理由を、ハオは知っていた。

目の前にいる温厚で優しく愛情深く誰にでも平等に接する少女も、“人間” があまり好きでない事を。
争いを嫌う彼女が、無意味な争いを繰り返す “人間” を好きになれるはずがない事を。
それでも誰にでも真っ直ぐと向き合っている事を。



「…この話、やめよう?」

「そうだね」



螢は困ったように笑い、話題を終わらせる。
今日は余計なことは考えず、楽しく過ごしたいのだから。








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