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アンナは一人、今しがた試合を終えた蓮達の事を待っていた。
近くにいるピリカとオパチョの会話を聞きながら。
薄暗い通路の片隅。まるで己の心を映したかのような灰色の冷たい壁に背を預けている。


アンナにとって、螢という存在は特別だった。

初めて抱き締めてくれた人。初めて “家族” となろうとしてくれた人。
強気で負けず嫌いで意地っ張りな自分の弱さを見逃さず、幾度も涙を受け止めてくれた “親友” 。
泣きたくなるほど優しく、暖かく、包み込むような愛情を注いでくれた “姉” 。

少女の優しさは、心の傷の深さに比例しているとわかっていた。
それでも、彼女の “真実” は見つけられず。全てを破壊出来てしまいそうなほどの力も、己以上の巫力も、自身を呪う孤独も、知る事はなかった。



「…ホントに………何にも知らなかったのね、あんたの事……」



天井を見つめ、ポツリと呟く。
俯いていては、また涙が零れ落ちそうだったから。

そっと瞳を閉じ、少女の事を想う。

いつだって優しく微笑んでいた螢。
怒ることも、涙を流すこともあったが、一度も弱音を聞いたことはなかった。
誰かに甘えるようなことも、誰かを頼るようなことも、記憶にない。


───それなのにあたしは
頼って、甘えて、支えてもらってばかりで何もしてあげられなかった

大切な人を喪う痛みまで、あんたが教えないでよ……


魂が消滅してしまった今、少女に会う術はない。
たとえイタコでも、転生あるいは消滅してしまった魂を呼び出す事など出来ないのだから。









































湧き上がる歓声。閉ざす心。
勝利を収めたチーム・THE 蓮の三人は、巻き起こる喧騒をどこか遠くに感じながら前へと歩いていた。



お疲れ様

「「「 !!!! 」」」



柔らかな微笑みを浮かべる少女は、己が生み出した幻なのだろうか。
この少女はもう何処にもいないと頭では理解しながら、心は拒絶してしまう。
消えてしまうはずがない、と。



「………螢………」



その名を口にした途端、世界はぐにゃりと歪んだ。
誰の声も届かないほど歪んでいく思考を、少女が食い止める。



前を向いて



諭すように言葉を紡ぐ少女。その言葉に、三人の思考は現実へと引き戻された。
蓮もホロホロもチョコラブも。言葉を発する事もなくその場に立ち竦んでいる。

目の前にいたのは螢ではなく。



「螢からの言伝じゃ。“お疲れ様、おめでとう” 」

「……狐珀……?」

「何じゃ、その狐に抓まれたような顔は」

「───いや、何でもない」



先程の少女の声と姿は、やはり幻だったのだろうか。
やけにはっきりと響いた声も、柔らかな微笑みも。

困惑する蓮達を尻目に、狐珀は姿を消す。
彼らが何を見て、何を言われたのか。狐珀には想像が出来た。



「……妾すらまだ受け止めきれぬのじゃ。無理もない……」



痛む心を自嘲気味に笑う。
己はもっと強いと思っていたのだがな、と。

微かに震える手を握り締め、前を向く。
螢の想いは終わっていない。終わらせてはならないのだと、もう一度決意する。


新しい幕は開けたばかりじゃ
螢の描いた終焉
妾は必ず見届ける






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