さよならでは探せない
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「ばいばい」

そう言って背中を向けた名前。
そのシーンを何度も何度もくりかえしても、認めたくないと胸が音を立ててそれを否定したがる。

どっちが大切?
そう聞かれたときに、迷うことなく名前の名前を答えることができたら、なにか違ったのか?




「也…錫也?…錫也ってば!」
「え」
「え、じゃないよ、どうしたの?体調悪い?」

心配そうに顔を覗き込んでくる月子。
それになんて答えたらいいのか分からずに、視線をそっとずらした。

「錫也?」
「いや、」
「もしかして…名字さんと、なにかあった?」

さすが女の子。
自分への好意には鈍感な月子でも、こういうことには敏感に気がつくんだな。
情けないような、頼りたいような、照れくさいような、だけどやっぱり苦い気持ちが心を占めて、それを誤魔化すように月子の頭をそっと撫でる。

「…ふられちゃったんだ」
「え?」

まさか、そんなことあるはずがない、…そんな表情で俺を見上げてくる。
それに苦笑を返しても、月子は信じられないと首を横に振るだけ。

「本当なんだ、昨日、別れようって」
「…それでいいの?」

いいはずない。
だけど、あんな台詞を言わせて、あんなふうに無理に笑わせて、そんな俺に引き止める資格なんてあるはずない。
それを吐き出せないまま、俯いて視線を落とす。

嘘だ。
本当の理由はそんなかっこいいものじゃない。
ばいばい、そう言われたあとに名前の腕を掴んで引き止めることだってできたんだ。
それをしなかった、できなかった理由なんてひとつに決まってる。

(怖かったからだ)

引き止めて、求めた視線がもしも軽蔑や憎しみに染まっていたら。
それを想像するだけで心臓が止まりそうだ。

あんな悲しそうな、今にも泣き出しそうな目をした名前にもう一度信用されたいなんて、そんなこと期待できるわけなかった。
好きだと、それを言葉にするだけで泣いてしまいそうなあの目を、まっすぐ見つめ返す勇気も自信も今の俺にはないんだ。

名前?
おまえがいなきゃ、俺はこんなに弱虫で、卑怯で、情けないやつなんだ。



ぱちん、

頬への小さな刺激に驚いて目をあける。
目の前には怒ったような月子の顔、そして刺激を感じた頬には少し冷たい月子の手のひらがあった。

「…月、子?」
「目、さめた?」
「え?」
「そんな顔するくらいなら名字さんのところに行けばいいんだよ」

名字さんが錫也を嫌いになんてなるはずないもの。
自信たっぷりにそう言い切る月子。
そんなこと言われてそんな顔見せられたら頷くしかないじゃないか。

「…ありがとう」

きっとまだ情けない顔で笑ってる俺だけど、背中を押されるままに教室を出た。
名前を探すために。



だからもう一度だけチャンスを下さい。




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