さよならをのみ込む
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「最近ね、口に出しちゃいそうになる言葉があるの」
「誰にだ?」
「それは秘密」

手すりに手をかけて外を眺める哉太の背中に寄りかかる。
ああ、本当はこうしてくっついてたい相手は錫也のはずなのに、どうしてここにいてくれないんだろう。

「…そんなの、理由は一つしかないんだけどね」
「あ?なんか言ったか?」
「…なんでもない」

哉太のあったかい体温に寄り添って目を閉じる。

「こんなふうにしてんの見られたら、俺錫也に殺されっかもな」

笑いながらそんなことを言う哉太。
それでも離れろって言わないでいてくれるのが、哉太の優しいところだね。

「そうかな?」
「そうだろ?だってあいつ月子にあれだけ過保護なんだ。彼女のお前にはそれ以上だろ」
「だって夜久さんは特別じゃない」

そう言った自分の声が思ってたよりも冷たくて、そんな自分に一番驚いた。
ああ、こんな声が出るほど気にしていたんだな。私。

「…悪い」
「哉太のせいじゃないじゃん」

そう、だれも悪くない。
だから謝らないで。
謝られたら、私、なにかを許さなくちゃいけなくなる。
そんなの嫌だよ、錫也。

「名前は、もっと我儘言えばいい」
「わがまま?」
「そんで、錫也を振り回しちまえばいいんだ」
「…そう、かな」

言いたい言葉を口に出したそのとき、錫也から向けられる顔は一体どんな表情だろう。
困ったり、泣きそうだったり、怒ったりしてないといい。
うん、できたら穏やかに笑ってくれてたらいい。

バカだな名前は、そんなこと考えてたのか。
そう言って笑ってくれたら、まっすぐに錫也の胸に飛び込めるのにね。




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