||枯渇


『あんっ、ああっ、』

脳内で繰り返される甘い嬌声。生々しい光景。欲情を誘う淫猥な音。

(千歳が勧めてくるから見てみたけど、やっぱアレじゃ抜けへんな)

ぼうっとそんな事を考える俺は、相当な変態なのかもしれない。

「・・・蔵?どしたの、ぼーっとして」

声をかけてきた目の前の少女に焦点を合わせると、いつも通りの可愛らしい表情と視線がぶつかった。彼女は佑美。俺の彼女や。
俺は佑美に適当に造り笑いを返すと、もう一度考えにふけった。昨夜のAVは確かになかなかのものだったが、それでも俺を満足させるには至らなかった。

(っていうか、俺佑美じゃなきゃ抜けへんし)

少し期待はしてみたものの、やはりAVごときじゃ佑美には勝てない。うん、やっぱり佑美は可愛え。最高や。最近ヤらせてもらえへんから、ちょっと欲求不満やけどな。

「蔵、疲れてるの?」
「ん?いや、別に疲れてへんで?」
「・・・ほんとに?無理しちゃダメだよ、蔵が倒れたら私死んじゃうかも」
「なんや可愛え事言うなぁ、俺だって佑美が倒れはったら何するかわからへんで」

そんな事を軽く言い合っていたら、尚更佑美が欲しくなってきた。あぁ、もう、我慢でけへんわ。

「なぁ、佑美、今からヤらへん?」
「は、はぁ?なに言って・・・」
「ええやん、そんな激しくせぇへんから」

勿論嘘やけど。でも結局行為が始まればどうせ佑美だって足りなくなるんやから別にええと思う。うん。

「なんでまた突然・・・」
「昨日友達から回ってきたAV見てたんやけど、やっぱり佑美じゃなきゃ満足でけへんくてなぁ」
「えーぶい・・・」

佑美の顔がサッと青くなった。顔面蒼白って奴や。あぁ、俺やってしまったかもしれへん。でももう止まれへん。
彼女は俺の言葉に小さく"ちょっとごめん"と漏らして踵を返したが、すぐにその腕を掴んだ。どこ行くんや、との言葉に返って来たのは無言。どうせこのまま帰るつもりだったのだろう。久しぶりのデートなんだから、そう簡単に逃がしはしない。

「んっ・・・、」

引き寄せて首筋に口づければ、佑美が身を捩って鳴く。これだけで反応するんやから可愛えなぁ、っていうか佑美だって結局ヤりたいんとちゃう?
そんな事考えてまう俺って、変態なんやろか。押し付けがましい事は確定やな。

「佑美・・・」
「蔵、やめっ・・・・・・」

逃げようとする彼女の腕を、さらにキツく掴んだ。佑美が顔を顰めたが、気にしない。そんな事で今更ひるむほど、今の俺は正常ではない。

「お前じゃなきゃ嫌なんや」

耳元でわざとらしく低音で囁いてやった。びくりと震える佑美が可愛い。俺、さっきから可愛いしか言ってないんとちゃうやろか。
佑美はこちらを精一杯睨みつけると(可愛い)、不貞腐れたような顔をした。それからこんな事を漏らした。

「・・・私だって、蔵じゃなきゃ嫌だよ」

・・・あかん、その台詞は反則やろ。
でも・・・、と更に何か続けようとした佑美を遮って、唇を奪う。隙間からねっとりと唾液が垂れるのも気に留めず、夢中でかぶりつくようにキスをした。もう形振りなんて構っていられない、とにかく今は佑美が欲しかった。

「ん、ふっ・・・・・・」

キスの最中、不意にしっかりと聞こえてきた彼女の甘い喘ぎ声は、ほんの少し何かに似ている気がした。ええと、そう、これは何に似ているんやったっけ?

(・・・あぁ、そうや)

『んっ・・・、あぁあっ!!』

昨日見たAVのワンシーンが脳裏にくっきりと蘇り、昨日は全く反応しなかった自分のモノがビクリと呻いた気がした。





そのままベッドにそっと押し倒した。
――――――――――――
変態チックな感じにしたかった。

2012/6/9 repiero (No,44)

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