||理想論


※とんでもない疑似関西弁になってます


「好き、ってさ。そんな簡単に言うもんやないと思う」

いつになく真剣な顔をしてそんな事を言う俺の彼女は、やっぱり馬鹿だと思った。

変わり映えのない景色。その中で唯一移ろいを見せるのは、佑美の笑顔だけだと告げたのは一体どれほど前の事だったか。付き合い始めて1年はそろそろ経つであろう俺達の関係は、未だにその形を定めていない。
何度愛の言葉を囁いても、何度愛の誓いを交し合っても、自分達の距離が近付く事はそう簡単にはないだろうと思う。その原因は、まぁ、なんというか佑美にあるわけで。先ほどの彼女の言葉から察しのつく人はもしかしたらいるかもしれないが、なんというか彼女は恋愛に対する理想が高い。
最初に彼女に会った瞬間から、馬鹿みたいに好きになってしまったわけではあるが、彼女を振り向かせるのは本当に大変だった。今でも、よく自分と付き合ってくれたな、なんて思う。

それを言うと、佑美は決まって

『なんでやろな。私にもわからへんわ』

と返してくる。ちょっと待て、じゃあ佑美は俺の事が好きじゃないのか――、そう聞くと、彼女はそういうわけじゃないと首を横に振る。好きだけど、その「好き」の理由がわからないだけだと笑って言うのだ。
そんなの、俺にだってわからない。理由を考えた事は一度だけあるけれど、逆によくわからなくなりそうだったので途中でやめた。まぁ好きなんだから良いかと、そう楽観的に結論を出した事を覚えている。

「例えば光がウチに好きって言ったとするやろ?そしたらウチは、ありがとうって返すわけや。でも、『ウチも好きや』なんていうのは絶対言わへん。そんな簡単に好きって口にしたらあかんのや」
「へぇ」
「どうでも良さ気やな。重要やで?」

楽しそうに語る佑美の姿を見るのはもう何度目の事か。ほぼ毎日、一緒に帰る度に聞かされている気がする。いつも俺には理解できない持論を並べてくるわけだが、彼女が最終的に出す結論はいつも一緒で、それには俺も賛同していた。
その締めくくりの言葉は、こう。

『・・・つまり、ウチは光の事を少なからず好いとるって事や』

その過程論は正直どうでも良い。最後の、この言葉さえ聞ければ佑美の恋愛持論など別に良いのだ。・・・まぁ、興味がないわけではないのだが。

「毎度思うんやけど、光って女心のわからん奴やなぁ」
「・・・は? なんやそれ」

考え事に耽っている最中に、不意に聞こえた言葉。思わず眉を寄せてそちらを見ると、佑美が口元に小さく笑みを描いて苦笑していた。

「だって、そうやろ? 毎日ウチがこんなに頑張ってはるんに、光は全然答えてくれへん。酷い奴やわ」
「ちょ、待ちぃや。答えてるやろ、ちゃんと。好きって、毎日のように言うてるやん。なんや?おまんはそれでも不満なんか?」
「それがあかんっちゅーねん。毎日好きって言われとったら、信じられなくなるのも当たり前やと思わん?もっとフレッシュな言葉が欲しいんや」

握りこぶしを作って力説し始める佑美を、ぽかん、と見つめる。どうりで最近佑美の語りに力が入っていると思ったら、そういう事か。もう少しわかりやすく拗ねて欲しいものだ。
自分はちゃんと彼女に気持ちを伝えているつもりだったが、どうやら彼女の恋愛持論ではまだまだダメらしい。正直に思った。めんどくさい、って。

「なぁ、光は言うてくれへんの?例えば・・・・・・」
「・・・愛してる、とかか?」
「へ・・・、」
「当たりみたいやな、顔真っ赤やで。・・・何度でも言うたるわ。俺はほんまにおまんの事愛しとんのやからな」
「・・・光こそ、顔赤いで。突然そないな事言うなんて、ずるいわ」

徐々に消え入りそうになっていく彼女の声に小さく苦笑して、クシャリと佑美の頭をなでた。嬉しそうに笑う笑顔が眩しい。やっぱり好きや、俺。

「・・・で、佑美は俺の事好きなんか?ありきたりな言葉なんかじゃ信じてあげへんで?」
「い・・・、いつのまにそんな意地悪になったん?前はもっと・・・」
「優しかった?俺は全く変わってへんけどなぁ。佑美が俺ん事見てへんかっただけとちゃう?」
「そ、そないな事ない!だってウチ、光んこと・・・・・・」

彼女の唇が自分の思惑通りに言葉を紡ごうとしているのをみて、ニヤリ、と笑う。あぁもう、可愛いやっちゃな。全然変わらへん。そのくりくりの目も、薄紅色の頬も、語り屋なとこも、扱いやすい性格なとこも、たったの少しだって、変わってへん。

「光のこと、愛しとるから!!・・・って、あ」


想論


真っ赤になって佑美が口を塞ぐ。今更遅いわ、あほ。
――――――――――――
甘くなった……かしら。
わりと気に入ってます。

2012/3/2 repiero (No,26)

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