||心を突き刺す





辿り着いた場所は、音楽室。
ブン太さんは黙ってこちらを見つめていて、私はそれにうつむいて涙を流し続ける事しかできなかった。
最初は本当に、自分でも意味のわからぬまま泣いていた。しかし涙を止めようとあくせくしている内に、だんだん本当に悲しくなってきて、しまいには嗚咽まで漏らしはじめてしまった。ブン太さんは宥めるように私の頭を撫でていたが、しばらく沈黙した後、口を開いた。

「・・・なんで、泣いてんだよぃ」
「・・・・・・そ、れは」
「俺が悪いのか?何か気に障るような事したなら、謝る」

ブン太さんの表情は真剣だった。こちらをまっすぐに見つめられて、私は目がそらせなくなる。

「・・・ブン太さんは、何も悪くないよ」

不意によぎった2人の笑顔を思い出して、唇を噛んだ。あぁもう、ほんと最悪。どうして私はよりによってブン太さんの前で泣いてしまったのだろう。悪いのは他ならぬ私だ。ブン太さんは勿論、舞華だって何も悪い事はしていない。
ただ、私がそれに、勝手に嫉妬をした。ただそれだけの事。

「じゃあ、お前はなんで泣いて・・・」
「ブン太さんには関係ないよ」
「関係あるだろぃ!・・・もう、こうやって関わってるんだからよぃ」
「・・・・・・っ」

ブン太さんの一言一言が胸に刺さる。どうしてあなたは、そんなにも優しいのか。いっそ殺したくなる程冷酷なやつだったら、好きになんてならなかったかもしれないのに。
それに、私にはブン太さんに慰めてもらう資格なんてないのだ。

「泣きたいなら泣けよぃ。慰めるぐらいなら、俺にもできるぜぃ?」
「ブン太さ・・・」

にかっ、と笑って、ブン太さんが私を抱き締めた。突然の行為に目を大きく見開く。

・・・ブン太さんは、この後に及んでまた私を舞華と間違えているんじゃなかろうか。

そんな考えが頭を過ぎって、私は思わず顔を悲しげに歪めた。

「ブン太さん、私は・・・」
「愛華だろぃ?知ってるよ」
「なら、どうして・・・」
「・・・泣いてる女の子慰めるぐらい、許してくれるだろぃ、あいつも。それにお前は舞華と似てるしな!」

はは、と軽く笑って、ブン太さんは抱き締める力を一層強めてくる。・・・でも、私は。

「っ・・・・・・」
「お、おい。なんでもっと泣いてんだよぃ?」

もう、私って本当に馬鹿だ。「どうして」、なんて最初から聞かなければ良かったのに。とめどなく溢れる涙が、頬を伝っていく。それにブン太さんは優しく頭を撫でてくれたが、余計止まらなくなるだけだ。
こんなに近くにいるのに、ブン太さんはまるで私を見ていない。ブン太さんは結局、私を通して舞華の事を見ているだけなのだ。

『お前は舞華と似てるしな!』

そんな何気無い言葉が、私の心を支配していく。私はそれからしばらく、泣き止む事ができなかった。

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