||まだ見えぬ予感





初めてブン太さんと話した日から、1週間が経った。舞華との間にはかなり進展があったらしく、どうやらあの日の翌日にブン太さんが告白して付き合いだしたらしい。まぁ、付き合う前から「浮気するなよ」とか言っていたぐらいだし、付き合いだした事で特に関係が変化する事はないのかもしれないが。
それでも「恋人」という関係は2人にとってかなり強いつながりと認識されているらしく、以前よりも更に仲良くなった。舞華の姉としては、その光景はかなり嬉しい。ぶっちゃけた話、舞華が幸せでいられるのなら相手は誰でも良いんだけどね、なんて。

「・・・あ、ブン太さん」

通りすがった彼を見て、軽くお辞儀をする。あれからまともに関わっていなかったから、彼と話すのは久しぶりと言えた。

「よぉ、えーと・・・愛華さんだよな。誰か待ってんのか?」

私の顔を見て、ほんの少し躊躇しながら言葉をかけてくる。好きな人とは言っても、さすがに1週間やそこらでは私達の差は見分けられないらしい。隣に並びさえすればすぐに判別できるのだろうが、まだどちらかが一人きりでいる時は、見分けがつかないらしかった。
まぁ、強いて言っても髪型ぐらいしか大きな差がないのだからそれも致し方ないだろう。あと、笑い方とか?

「いつも私は舞華と一緒に帰ってるから。・・・ブン太さんは?」

私が首を傾げると、ブン太さんは驚いたように目を丸くした。それから、少し言いにくそうに口を開く。

「・・・実は、俺もなんだよぃ。舞華と一緒に帰るつもりだったんだけど・・・それならまた今度で良いや」
「あ、そうなの?だったら私は先に帰るよ。二人を邪魔したくないし」
「いや、でも・・・・・・」

尚も食い下がるブン太さんに、私は小さく溜息をついた。それから微笑んで、舞華と一緒に帰りたいんでしょう?と言ってやる。すると、ブン太さんは苦笑気味にうなずいた。それがわかれば、十分だ。

「だったら、舞華と帰ってやってよ」

私の言葉に、ブン太さんはありがとうと言って笑った。輝くような、その笑顔。思わず、しばし見とれてしまう。

「じゃあ、またな愛華さん!」

そう言って片手を上げたブン太さんにハッとなり、私も小さく手を振り返した。身を翻して歩き出す。しかし、どうしてもブン太さんの方が気になってしまう。それに耐え切れずにちらりと振り返ってみれば、ブン太さんが未だにこちらを見ていた。私と目が合ったのに気付くと、また手を振ってくれる。

「また今度、」

小さく呟いて手を振り返せば、じんわりと温かい気持ちになった。同時に、とくんとくんと心臓が早鐘を打ち始める。

(あ、あれ?)

どうして私、こんなにドキドキしてるんだろ。ブン太さんは、舞華の彼氏なのに。応援してるはずなのに。

(・・・気のせいだよね)

よくわからない感情にそう答えを出して、私はひとりで帰路についた。舞華は先生に用事を頼まれていたようだったから、きっと帰りは少し遅くなってしまうのだろう。夕方、暗くなってからブン太さんと2人きりで帰るのだろうか。

そんな事を想像すると、少しだけ、心にぽっかり穴が開いたような気分になった。やはり、どうしてそんな気持ちになってしまったのかはわからない。

「あーもう・・・。早く帰ろ・・・・・・」

はぁ、と溜息をついて、私は足を速めた。

この不可解な感情が、大きく自分たちの道を逸らしてしまうとは知らずに。

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