||とある幸せ


※この作品は「アシンメトリー」の番外編です。
極力本編をご覧になってからの閲覧を推奨いたします。


彼と付き合い始めて、一体何日が過ぎ去っただろうか。初秋から初冬へ、季節をひとつ乗り越え、私たちの仲は以前に増してずいぶんと親密なものになってきている。苦難と呼ぶべきそれを乗り越えたおかげか、私たちは普通の何倍も密接な関係を築けている。
いつまでも続けば良いなぁ、と思う。いつまで続くか、と考えたことはない。それほどまでに幸せだった。毎日が、彼と一緒だったから。

「ぶーんーたー」
「なんだよぃ」
「なんでもない」
「んだよ」

ごろごろ、ぐだぐだ。何度か目になるお家デートは、げんざい停滞しきった空気の中を彷徨っている最中である。ブン太の部屋は少し意外なほどに片付き、いつ行っても雑誌や服が置かれている程度で特に乱れた感じはない。本人曰く「いつ愛華が来ることになっても良いように綺麗にしてんだよぃ」だそうだ。そんな私たちは、ただ今私がブン太に抱き寄せられる形で彼の膝の上に座る、もとい寝ている状態にある。

「愛華、ひま」
「私もひまかも」
「よっしゃ、なんかしようぜ」
「やだ」
「ええー、なんでだよぃ」

空気はまたうだうだと停滞前線へ。特に何をするでもなく、駄弁りばかりが続く。あ、ブン太が私をまた引き寄せた。これ以上近付いたらただでさえドキドキしてるのがどうなってしまうかわからない。さり気無くブン太の腕を解いて立ち上がって、彼の正面に向かい合うようにして座りなおした。距離はゼロから1mへ。空気だけは相変わらず進みも戻りもしない。ブン太の瞳が一瞬、こちらを見つめて揺らいだ。

「なぁ、愛華」
「ん?」
「好きなんだけど」
「え・・・、あ、う、うん。私も・・・」
「・・・あああああ、ほんとお前可愛い大好き愛してる」

ぎゅー。ブン太が頭を抱えて呻いた、と思ったら、頬を染めた私を引き寄せて、正面から抱きしめてきた。ドキリ、心臓が跳ね上がる。近くで感じるブン太の温もりとにおいに胸がきゅぅっとなって、身体が緊張で硬直する感覚と共に、どんどんと顔に熱が集まっていく。今度は心臓の音も隠しようがない。ドクリ、また鼓動を打ったこの音が、ブン太に悟られてしまうのは一体いつか。

「愛華ー」
「な、なに?」
「ちゅーしていい?」
「は、ちょ、」

答えるまでもなく。慌ててブン太の方に顔を向けた私の唇に、彼のそれが触れる。ただそれだけの柔いキス。あ、やばい、今ぜったい顔真っ赤だ。見られたくなくてブン太の胸に顔を埋めて、ごにょごにょと「反則禁止」と呟けば、頭の上から楽しそうな笑い声が落ちてきた。もう、かっこいい。かっこよすぎてどうにかなってしまいそうだ。

「・・・ね、ブン太」
「んぁ?」
「私、幸せだよ」
「・・・おう」





幸せだなぁ、なんて呟きは心の中で溶け消え、後にはまた停滞した空気だけが残された。あぁ、幸せ、幸せ。
――――――――――――
駆け足ですいません(^ω^;)三
久々にこの子たちの様子を描けて満足です。
本編とはかけ離れた幸せっぷりでしたがね!

リクエストありがとうございました!

2013/5/29 repiero (No,130)

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