||光





噴水公園は、走って行けばすぐだった。暗い夜道を照らす外灯は頼りなく、途中で何度もこけそうになった。でも公園のベンチに赤い髪が見えた時、なんだかほっとして、一気に気が抜けた。はやる心臓と不安を抑え、私は彼に歩み寄る。
ふと、彼が顔を上げた。

「・・・! 来て、くれたのかよぃ」

ブン太さんは私の存在に気がつくなり、驚いたような顔をした。それから、ほっ、と安堵の息を漏らす。まさに「来るとは思っていなかった」と、そういう表情だった。

「・・・悪ぃな。こんなとこに呼び出して」
「・・・・・・うん」
「お前は、怒るかもしれねぇけど。・・・俺は、舞華と・・・」
「別れた、んだよね」
「・・・え?」

ブン太さんが目を見開く。戸惑ったように、知ってたのか?と彼の口が言葉を紡いだ。私はさきほど舞華に聞いた話を思い出しながら、小さくうなずいた。

「舞華に、全部聞いたよ。夏祭りのことも、その後のことも」
「・・・あいつが、話したのか?」
「うん。・・・ごめんなさい、って泣いてた」
「そっか・・・・・・」

妙な沈黙がおりた。ブン太さんは一体何を考えているのかわからないが、少なくとも舞華のことを思い出しているには間違いないだろう。悲しいとか嬉しいというよりは、深い感慨にふけっているようだった。私はそれを見つめてただ黙っていた。彼女とブン太さんの関係について、口を出すわけにはいかない。

「・・・自分勝手な話なんだけどよぃ」
「え?」
「俺、まだ愛華のことが好きなんだわ」
「あ・・・」
「愛華はもう俺のこと、嫌いになった、よな」

彼がこちらを見る。私は薄く口を開いたまま何も言えず、でも、せめてとばかりに首を振った。嫌いなわけが、ないじゃないか。舞華に何を言われてもブン太さんに裏切られたと思っても、それでも尚、私はブン太さんを嫌いになることができなかったのだから。

「・・・私も、好きだよ。関わらないでなんて言っといて、私こそ、自分勝手だけど」
「・・・愛華、意味わかってんのか?俺の言ってる『好き』は、友達として、じゃねぇんだぞ?」

ブン太さんは申し訳無さそうな、悲しそうな顔でそう言った。私はそれに驚いて目を見開くが、彼はその表情を全く別の意味としてとったようで、更に表情をゆがめた。

「ブン太さんこそ、意味、わかってる?」
「え?」
「私は、本気で・・・・・・」

かぁっ、と顔に熱がのぼる。そこからは言葉が喉につっかかったように出てこなくて、俯いて顔の赤さを必死で隠そうとした。でもいつのまにか近くまで来ていたブン太さんが、私のあごを持ち上げる。途端、また頬が火照った。

「それ、本気かよぃ?」
「・・・もちろんだよ」
「・・・嘘じゃねぇんだな?」
「・・・もちろん。ブン太さんこそ、嘘じゃないよね?」
「もちろんだよぃ!」

心外だ、とばかりに大きくうなずいた彼に、私はほっとしたように微笑んだ。彼もつられたように微笑んで、それから私を抱き締めてくれた。それが嬉しくて嬉しくて、私は確かめるように、彼の背中に腕をまわす。夏だというのに、ブン太さんの温もりにほっとした自分がいた。

「なぁ、愛華」
「・・・なに?」
「送ってくから、手、繋いで帰ろうな」
「え・・・・・・」


END


(頬を染めた私の手を彼が取り、ぐいと引っ張る。)
(それにつられて歩き出しながら、どくん、と心臓が高鳴るのを感じていた。)

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