||後悔の先
◇
【愛華side】
ごめんなさい。
それだけ言い置いて、舞華は部屋を出て行った。後に残されたのは、全てを知らされた私ただひとり。
『お姉ちゃんに、言わなくちゃいけないことがあるの』
そんな風に切り出された、妹の話を思い出す。
(・・・なんだ。ブン太さんは、嘘をついてなかったんだ)
舞華の言葉は信じられないものが多かったけれど、そのわりに、なんだかあっさりと受け入れることができた。あれだけ「舞華の為」とか言っていたわりに、結局私が信じたのはブン太さんのほうだったのだ。いや、信じたのではなく、信じたかっただけなのかもしれない。
(私名義の、メールと電話・・・ね)
舞華に言われたことを思い出し、夏祭りの前に舞華が勝手にしたという電話とメールの履歴を調べると、確かに見に覚えのないものがそこに残されていた。これで本当に、ブン太さんの身の潔白は証明されたわけだ。
(嘘をついていたのは、舞華のほう)
別にそれを責めるつもりはない。彼女だって葛藤があったろうし、けっきょくは、自ら踏み台になったか、そうでなかったかというそれだけの違いだ。
それよりも、責めなくてはならないのは。
(なんで私、ブン太さんにあんなこと言っちゃったんだろう)
くしゃり、と顔が歪んだ。さっき止めたはずの涙が、また堰を切ったようにあふれ出す。あんなひどいことを言ってしまったあとでは、もうブン太さんに顔向けできない。自らチャンスを棒にふったのだ。仕方がないといえばそうだろう。私が馬鹿だっただけだ。でも、もしかしたらブン太さんの隣に立てたかもしれないということが後悔を更に膨らませて、私はただおろおろと涙を流すことしかできなかった。
「・・・あ」
ずっと聞いていなかった着メロが鳴った。確認しなくてもわかる。ブン太さんだ。出るかどうか迷った。出たところで、罵倒されるだけなのではないかと、そう思ったからだ。そうやって迷っている内に電話は切れ、途端にまた後悔が頭の中に渦巻いた。しかし携帯を開いてすぐ、留守電が残されていることに気がつく。そろそろと、ボタンに指を伸ばした。
『もしもし、愛華?もう関わらないでくれって言われたばっかなのに、悪ぃ。でも、ひとつだけ、言いたいことがあるんだ。もし聞いてくれるなら、今から噴水公園に来てくれ』
ぷつっ、と電話が切れた。力が抜けて、携帯を持った腕が、床に落ちる。
何を言われるのだろうか。会いにいって、また嘘をつかれはしないだろうか。いや、彼は嘘つきなどではなかった。それはたったさっき、舞華に聞かされたばかりではないか。
「・・・・・・でも、会いに行かなかったら」
私はきっと後悔する。たとえ何を言われたとしても、後で今以上に後悔をすることになるだろう。私は意を決して立ち上がった。携帯だけを握り締めて、すぐに部屋を飛び出した。
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