||待ち人来ず





[愛華side]
トイレから戻った時、舞華はなんだか怯えるような目をして俯いていた。どうしたの?、と私はそれに話しかけ近付く。先ほどまで座っていたソファに腰をおろすと、舞華はどこか泣きそうな顔でなんでもないと言った。なにか嫌なことでもあったのだろうか。なにかあったら私に相談してね?、と言うと、舞華は悲しそうな顔のまま微笑んだ。





来るべき夏祭りの日。3日目の朝は意外にもすっきりと目覚められたが、その日の予定を思うとなんだか気が気ではなかった。夜8時に駅前、という2つのキーワードを口の中で転がす。服は何を着ていこうか。やはり浴衣だろうか。でも、浴衣なんか着て行って、ブン太さんはどういう反応をするのだろう?いろいろ考えてみたが、プラスの方面ではあまり考えられなかった。そもそも、今日彼と祭りに行けるというのが奇跡でしかないのだ。
携帯をいじったり、テレビを見たり、友達に電話してみたり。
落ち着きなく1日を過ごした後、とうとう約束の時間が近付いてきた。舞華はブン太との約束がある〜、と言って、ずいぶん前に出かけている。・・・ブン太さんは、本当に彼女と別れるつもりなのだろうか?やはり、私が騙されているだけなのだろうか。

「・・・いいや、行こう」

けっきょく浴衣を着て荷物を持って、足早に駅へと向かって行った。





夏祭りの最終日、午後8時。駅前にひとり、私は佇んでいた。時間にはなったものの、彼はなかなか来ない。早めについてしまったから余計に暇で、というか来るかどうかすらもわからない相手を待ち続けるというのは、いささか酷なものがあった。5分待つ、10分待つ、15分待つ。ブン太は来ない。

(だまされた?)

嘘吐き、という単語が脳裏を掠める。すぐに首をふった。彼は簡単に嘘をつくような人間ではないと、少なくとも私の経験が叫んでいる。きっとただ遅れているだけに違いない。もう少し、もう少しだけ待とう。

(ブン太さん、今どこにいますか?)

簡素だがメールを送った。5分、10分、15分、ついには8:30になったが、彼が来るどころか返信すらもない。ここまでくると私の精神はもう限界だ。やっぱり騙されたんだ、という落胆と怒りがふつふつと湧き上がってきて、その勢いのまま浴衣のすそをきつく握り締めた。こんな、私だけが馬鹿みたいじゃないか。少なくとも私は彼のことを信じていたというのに。今もどこかで見ていて、私を笑っているんだろうか?いや、彼はそんなことをする人間ではない。しかしそれなら、なぜ来ないのだ?

(・・・も、帰ろ)

時刻は8時30分をまわる。ついに堪えきれずに、私は自宅に帰ることを決心した。

[18/31]
[prev/next]

[一覧に戻る]
[しおりを挟む]

[comment]

[back]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -