||約束





あれから、何もわからぬまま時間ばかりが過ぎて。

告白まがいのあの言葉を信じるべきなのか、私は未だに思いあぐねていた。気が付けば夏休みは目前に迫り、けっきょく関係は何ひとつ変わることなく夏を迎えた。少しでも期待してしまった自分が馬鹿みたいだ、と溜め息がもれる。どうせ自分は遊ばれただけの存在で、彼にとっては至極どうでもいい女なんだろう。別にそれならそれで、良い。いつものことだから。

「・・・?」

夏休み前、最終日の放課後。教室を出た直後、私は携帯のバイブに気がついた。

「! ・・・ブン太、さん」

彼からのメール。話す機会は今でも多かったが、メールそのものは久しぶりだった。何の用事か、思い当たる節はない。指がボタンを押すことを躊躇する。

「・・・・・・え?」

そんな間抜けた声と同時、私は携帯を落としそうになってしまった。無意識に目が何度も表示された文章を読み返すが、書いてある内容は当然のことながら変わらない。ただ、「夏祭りに一緒に行かないか」なんていう夢のようなありえない言葉が羅列されていて。

「愛華!」
「・・・あっ、えと、ブン太さん」
「なぁ、お前今ちょっと時間あるか?」
「え?う、うん・・・」
「じゃあ、来い」
「え・・・・・・」

突然ブン太さんに腕を掴まれ、力強く引かれる。少しだけ落ち着かない様子のブン太さんは、半ば強引に私を屋上の方まで連れて行った。しきりにあたりを気にしていた彼も、屋上の扉を閉めると同時、ふぅ、と息を吐き出した。

「あの、さ。メール見ただろ?」
「・・・うん」
「別に冗談じゃねぇんだ。・・・この間の告白だって、嘘じゃねぇ」
「・・・・・・・・・」

なにかを言おうと思って唇が動くが、それは結局声にならぬまま吐息だけがもれた。言葉を捜して目を泳がせる私を見つめ、ブン太さんが再び口を開く。

「夏祭りの時、もし愛華が許してくれるなら・・・。俺は、お前と「恋人」として行きてぇんだ」
「・・・あ、あはは。なに、言って・・・・・・」
「もちろん、舞華とは別れるぜぃ」
「・・・・・・だめだよ。そんなの」
「俺は本気で、愛華のことが好きなんだよぃ。・・・ダメか?」

悲しげな瞳だった。好きと言われて、正直な話こころが揺れないわけがない。でも、それでも唇を固く結び続けるのは、もしもこれが嘘だったらという不安と、妹に対する罪悪感や遠慮心のせいだった。

「・・・もう一回、言わせてくれ」
「・・・・・・・・・」
「好きだよぃ、愛華」

なんと答えるのが正しいのか、私は躊躇するように言葉を探した。素直に恋こがれた思いを吐けばいいのか、妹への遠慮を優先させればいいのか。

「・・・俺のことは、嫌いか?」
「っ、ずるいよ・・・そんな言い方」

自分の気持ちに素直になろうとするほど、舞華の存在が大きな壁となって感じた。けれど、私だって前に進まなくてはいけない。これが彼の気持ちを無下にする行為であっても、はたまた自分の身を滅ぼす行為であっても。
私はようやっと、口を開いた。

「・・・あのね、ブン太さん」
「・・・・・・おう」
「ブン太さんのことは、好きなんだ。友達としてじゃなくて・・・、恋愛、感情で」
「! じゃあ、」
「でも、ダメなの。だって、ブン太さんには、舞華がいるでしょう?」

我ながら、酷い顔をしていたと思う。涙を零してはいけない、絶対に悲しげな様子を見せてはいけないと、こみ上げるものを無理矢理押さえ込んで。くしゃくしゃの顔、というのはまさにこのことをいうのかもしれない。
ブン太さんは私を見つめて、少しだけこわばったような表情を見せた。あぁ、とでも言うような。それは落胆の意か、悲嘆の意か、それとももっと別の意味なのか。

「・・・なぁ、愛華」
「・・・・・・な、に?」
「俺、やっぱりお前のことが好きだよぃ」
「え・・・」
「一応言っとくけど、舞華とはもう別れる」

もちろん、お前のことは関係なしに、な。
そう言って、ブン太さんは深々と息を吐き出した。私はなにかとんでもないことをしてしまったような、そんな気になって呆然と彼を見ていた。私が前に進もうとしてしまったことで、全ての歯車が狂ってしまったような。

「夏祭り、恋人としてじゃなくても、友達として・・・絶対、行こうな」
「・・・・・・ぁ・・・」
「じゃあ、またな」

彼が見せたのはいつもと変わらぬ笑顔で。
私はそれに、絶望に押しつぶされるかのように膝を落とした。

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