||逆さまの関係





一人で泣いていた。放課後の教室だった。
さっきまで向けていた視線の先、窓の外には彼の姿があって、楽しそうにテニスをしている。私の好きな人、・・・私の妹の恋人。
私達姉妹はよく似ているから、そのお陰かブン太さんは私ともすごく仲良くしてくれる。彼の優しさは嬉しい。でも、今はそれが逆に辛い。彼に優しくされるたび、笑顔を向けられるたび、彼がその先に見ている人がいることを感じてしまうからだ。
だから、泣いていた。その辛さを吐き出すように、一人で。

「・・・愛華?」

・・・そんな時に彼が現れるとは、思いもせずに。
聞きなれてしまったその声に慌てて振り返れば、教室の扉のところにブン太さんが立っていた。彼は私が泣いているのを知るなりすぐに近付いてきて、事情を聞くより先にあの日のように抱き締めてくれた。しかし私は、それを突き放す。
これ以上近くにいれば、私の心がどうなってしまうかわからない。少しだけ傷付いたように顔を歪めたブン太さんに、心がずきりと痛んだ。

「・・・なんで、泣いてるんだよぃ」
「・・・・・・なんでも、な・・・」

彼から顔を背け、泣き顔を隠すように両手で覆う。しかしそれを、やんわりと外された。視線が絡んで、尚更その場にいられなくなる。

「誰かが何かしたのか?それともどっか痛いのかよぃ」
「・・・・・・」

私は彼の問答に口を閉ざし、ただただ涙だけを流し続けた。まるで子供のようなやり取り。でも今の私には、それしかできなくて。

「・・・俺が悪いのか?」

首を振った。しかしブン太さんは顔を顰め、難しい顔をしている。二度も彼の前で理由も明かさずに泣いてしまったから、優しい彼はどこか責任を感じているのかもしれない。ブン太さんは何も悪くなどなく、悪いのは私なのに。

「なぁ、なにがあったんだよぃ。俺にできる事ならなんでもしてやるから、話してくれ」
「・・・・・・」
「・・・お前が泣いてんのは、嫌なんだよ」
「!」

嫌。・・・嫌、か。それは私に対する優しさか、それとも私の先にいる人物・・・舞華に対する優しさか。そんな事を考えて、自嘲する。涙が溢れた。

「愛華」
「・・・・・・」
「好きだよぃ」
「え・・・・・・」

こんな時に、なんて冗談だろう。でも漏れたのは、思いのほか間抜けな声だった。好き、だなんて無防備な言葉、彼の口から聞くことができるなんて思ってはいなかったから。きっとそれは、私への言葉じゃないのに。

「・・・っ、ぅ・・・」
「愛華・・・?」

これ以上、私の名前を呼ばないで欲しかった。期待してしまうから。ちゃんとブン太さんが、舞華じゃなく私を見てくれてるって、そう思ってしまうから。その「好き」が舞華じゃなく、私に対してのものだって。

「私は舞華じゃないよ、ブン太さん・・・、」

くしゃりと顔を歪めて、そう言う。するとブン太さんは驚いたように目を丸くし、それから怒ったような顔になって

「んなのわかってるよぃ!俺は、舞華じゃなくて愛華に言ってんだ」

と言った。酷く優しい声音だった。

「もう一回言う。好きだよぃ。恋愛感情として」

ブン太さんは囁くように言って、私をもう一度抱き締めた。今度は私も抵抗する事無く、静かに涙を流しながらそれに身を預けていた。


わからない事はたくさんあった。
ブン太さんは、どうして舞華の影でしかない私に「好き」なんて言ったんだろうか。私の事が好きなら、舞華の事は?恋人という関係は?
まるで逆さまな言動と関係に、頭が混乱した。

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