||傾き出した天秤は止まらない





「愛華」

今日も彼は教室に訪れた。笑顔で私に歩み寄って、笑顔で他愛の無い話をして。回りからの視線は痛いが、そもそも私の妹がブン太と付き合っているのは周知の事実。それを考えると私に拘る必要も無いのか、ファンクラブからのこれといった攻撃はなかった。特に私の日常生活に何が起こるわけでもなさそうなまま、毎日が過ぎていく。

しかし、気がかりなことはある。

ブン太さんの笑顔を見る機会は確かに増えた。しかし、彼の恋人であるはずの舞華の笑顔は・・・姉の目から見ても、確実に減ってきているのだ。まるで入れ替わるように、反比例するように、綱引きのように。

「ねぇ、ブン太さん・・・」
「なんだよぃ?」

私の恐る恐ると言った様子に、ブン太さんが首を傾げる。私はそれに口を開きかけたが、結局何も言わないまま首を振った。私が首を出す問題じゃない、そう思ったからだ。これ以上思い上がってしまったら、私はそれこそ彼から抜け出せなくなる。

「あ・・・、そろそろ授業始まるよ」
「お、そうだな。じゃあな!」
「うん・・・ばいばい」

小さく手を振って見送る。そんな私の姿を、廊下から舞華が見つめていたとは知らずに。

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