||分かれ道のようで





私が泣いていたあの日から、ブン太さんに何かと声をかけられるようになった。最初はただの同情かと思っていたが、日が経つにつれ、それとは少し違うような気がし始めていた。

「・・・お、よぉ愛華!」

今日も声をかけてくれるブン太さんは、至っていつも通り、優しい。未だにそれが辛くなる事はあるが、しかしそれすらも覆い隠すかのようにブン太さんは私に笑顔を向けてくれていた。
・・・その代わり、どういう事か舞華に笑顔を向ける事は少なくなっているようだったけれど。

「こんにちは、ブン太さん」
「次、移動教室なのかよぃ?」
「あ、うん。音楽だから」
「音楽・・・音楽ね。そっか、がんばれよぃ」
「うん、ありがとう」

音楽、という言葉にブン太さんはやたらと顔を顰めていたが、最後にはそれも全て流して笑っていた。たぶん、あの日の事を思い出してしまったのだろう。
私が泣いていた時、ブン太さんが連れ込んだのは音楽室だったから。

廊下の角を曲がって消えたブン太さんの背を見つめ、私は早歩きで音楽室へと向かった。別にまだ時間に余裕はあったが、どうしてかそうしなければならないような気がしていた。

「・・・?、」

途中、舞華とすれ違った。その表情はどこかいつもの明るさを失い、暗いものを抱えているような気がする。しかしそれは本当に極僅かで、まわりにいる友達は気がついていないようだ。

(・・・気のせい、かな)

ただの思い過ごしかもしれない、と勝手に結論付けて、私はその場を足早に去った。


――大きな運命が、動き始めていたとは知らずに。

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