||ふたり、幸せ


りんご。ごりら。らっぱ。ぱん……だ。だるま。まん……と。とーち。ちんこ。おいそれは言うのかよ。

「えー、別にいいじゃんかよぃ、言っても」
「今まで伏せてたのにそれだけ言うのはなんか逆にイヤ」
「わがまま」
「うるさい。で、『こ』だっけ? コアラ」
「裸体」
「裸体て!」

うるせーなー、いちいち。とブン太はめんどくさそうにいって、私のおでこをピシッと打った。とても痛い。けれど、その音をもかき消すような雨の音にぶるりと体が震え、おでこを摩りながらブン太の方にそっと身を寄せた。憎くても、寒さには勝てない。そういうものだ。
雨は、少し前からずっと降り続けている。せっかくの休日だからとお買い物に来たのに、まさかこうなってしまうとは。今は店の軒下にいるけれど、いずれは離れないといけないだろう。それまでに雨がやめば……と身を寄せ合ってはいるが、一向にその気配はないのである。

「さっきからブン太、下品な言葉ばっかりだね」
「うるせぇ。そういう年頃なんだよ」
(……年頃、ね)

出たよそのフレーズ、とあきれたようにため息をついて、ブン太から体をそむけて空を見上げた。雨はまだやまない。
高校二年生という年頃は、男女ともに性欲が非常に強くなってそれへの興味が強くなる――というのは、少し前の授業で習った内容だ。その話を聞いたとき、内心ドキッとしたことをよく覚えている。心当たりがあったというのは勿論、今付き合っている相手、ブン太のことが頭にチラついたからだった。
ブン太ももしかしたらそうなっていて、私と――その、したい、とか思ってたりするんだろうか。それとも私みたいな幼児体型には興味がなくて、もっとグラマラスな人に乗り換えたいとか思ってるんだろうか。
よくわからなくなって、結局隣で授業を聞いていた彼には何も言えないままにその時間を終えた。半分くらいお舟をこいでいたから、たぶん彼は聞いていなかったんだろうと思うけど。
ちなみに、付き合ってもうすぐ2年となる彼とは、未だにキスどまりである。

「雨やまねーなー」
「そだね。……もう、このまま走って帰る? ブン太の家までさ」
「あー……そうだな。そうするか」

よっこらせ、とオッサンくさいことを言いながらブン太が立ち上がる。私もあわせて立ち上がり、それからよーいどん、と言って二人で走り出した。途端に体を冷たい雨が打つ。でも、ブン太の家はそう遠くないし少しの辛抱だ。

「綾乃、今日誰もいないっぽいわ」

家に着くと、ブン太は私にタオルを手渡しながらそう言って笑った。とりあえず入れよ、と言われるままに部屋に通され、久しぶりに来る部屋の雰囲気が少しも変わっていないことにちょっとだけ笑みをこぼす。季節外れのストーブが出され、それに加えて、暖かいココアが渡された。少し適当なところはあるけど、ブン太はいつも優しい。ありがとうとお礼を言うと、ブン太は照れたようにはにかんだ。

「それで、さっきのしりとりの続きね。えーと、なんだっけ?」
「裸体」
「あー……うん、それか。じゃあ、入り江」
「え…………」

大して難しくもない言葉の筈が、ブン太は答えようとしたのをぴたりと止めた。少しの間沈黙が流れる。もしかしてでなくなったのかな?とブン太の方を見ると、彼は私の濡れた身体を見ていた。よく見れば服が少し透けている。そこまで来て、自分がかなり無防備な恰好をしていることに気が付いて慌ててタオルで隠した。すると彼が口を開く。

「なあ、エロいことしようぜ」
「……は?」

高校二年生、健全な男子。丸井ブン太くんの発言である。

「えろ……、え?」
「いーだろぃ。お年頃だし」
「や、ちょっと待って……そんな突然、」

言いかけた言葉を遮るように、ブン太が私を引き寄せて口づける。いつもより深いキス。熱い舌が求めるように口内を滑っていく。普段は暢気な顔してるくせに、こんな時ばかり鋭い彼の瞳が私を近距離でまっすぐに射抜いていた。頭に手を回され、だんだんと壁際に追い詰められていく。でも、それに気が付いているのに抵抗できなかった。少しの不安と、期待、緊張が絡み合って妙な余裕に変わっていた。

「っ、はっ」

ようやくキスから解放され、荒くなった息で少し俯く。たぶん顔が赤い。ブン太の存在を間近に感じて、きゅうと胸が苦しくなる。

「なにすんだろ、最初。とりあえず脱ぐ?」
「ぬ、脱ぐの……?」
「だってわかんねーし」

楽しそうにブン太が笑う。そりゃ、そりゃあね、あんたは良いかもしれないけどさぁ。
ほんとに、するの?と恐る恐る尋ねると、ブン太は少し真面目な顔をして嫌か?と聞いてきた。たぶん、嫌といえばこれ以上はしないでくれるだろう。彼はたぶん、ちゃんと私のことを好きでいてくれているから。

「……ううん」

でも、私は首を横に振った。彼は笑って、私の濡れた服を少しずつ脱がし始める。透けた肌と、雨で冷たくなった身体がふるりと震えた。嫌な感じはしない、けれど長い沈黙が下りる。ざああ、と雨の音だけはよく聞こえた。

「は……恥ずかしいから、早くね」
「自信ねーけどな。……俺、理性吹っ飛んだらごめんな」
「ん、ふふ、ブン太なら安心してる」

少しの会話。やがて胸元が露わになる頃、もう一度だけ口付けられて、ちゅ、と小さな水音がした。


ふたり、


――――――――――――
ちょいエロ、ということで。
思春期特有の雰囲気が出てたら良いなーと思います。

大変お待たせして申し訳ございません。
リクエストありがとうございました!書いてて楽しかったです。

2015/3/6 repiero (No,149)


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