||届け


「いらっしゃいませーっ!」

客が入ってくるのを見て、元気よく挨拶をする。今どきコンビニなんかでバイトする高校生に、こんな元気な奴はいないだろう。それはそうだ。レジ打ちが遅く、棚出しも綺麗に出来ない俺にとってはこれだけが取り柄なのだから。

「お会計540円になります!」

お煎餅やらを買いに来たおばあちゃんにニコニコと告げると、元気がいいねぇ、と笑ってもらえた。あざっす、とついいつものノリで言いそうになり、慌てて「ありがとうございます」と丁寧に言い直した。褒められるとつい調子に乗ってしまう。

「切原は今日も元気だなーっ」

店長は俺を気に入ってくれていて、あまり仕事ができなくても徐々に上手くなれば良いと言って見守ってくれる。まだまだ失敗が多いけれど、少しずつ上達しているつもりだ。優しい店長の存在は本当にありがたい。

「で……、例のお客さんはもう来たのか?」
「ま、まだっすけど」
「はははっ、そうかそうか、来るといいなぁ!」
「からかわないでくださいよ!」

例のお客さん、とは、俺がひそかに片思いをしているこのコンビニの定番客だった。毎週土曜の夕方にケーキを買いにきては、嬉しそうにそれを持って帰る。たぶん大学生。俺が5か月前にバイトを始めてから、その時間にはほぼ欠かさずに来ているのを見る。それで、もうすぐその時間帯になるのだった。

(あっ……)

ウィン、と自動ドアが開いて、茶色いトレンチコートを着た女性が入ってくるのが見えた。あの人だ。今日は長い髪をハーフアップに結んで、少し大人っぽい雰囲気にしている。かわいい。

「いらっしゃいませ!」

いつものように挨拶してこっそりその人の動向を見守ると、やはりケーキのコーナーに向かっていくのが見えた。彼女のお気に入りは確かモンブラン。チョコケーキもよく買っている。

「これ、お願いします」
「あっ、ありがとうございます」

モンブランをバーコードリーダーでピッとやって、値段を告げてからスプーンを準備する振りしてしゃがみ込む。彼女から身を隠してひとつ深呼吸し、ポケットから一枚の便箋を取り出した。昨日頑張って書いた手紙、えー、まあ、ラブレターってやつだ。
彼女が財布の方を見ている隙にスプーンと一緒にそれを入れ、なんでもない素振りでお会計を済ませた。これできっと、彼女は手紙に気が付いてくれるだろう。

「ありがとうございました!」

元気よく挨拶して、後姿を見送った。手紙、読んでもらえるといいな。

「……おっ、切原、お客さん来たのか?」
「はい! 手紙、渡せたっす!」
「よかったなぁ! あとは連絡してくれるといいんだけどなあ、がはは!」

店長が豪快に笑う。そうだ、いくら手紙は渡せたと言っても、相手から返事がもらえなければ意味がない。ダメでもともと、知り合いになれるだけでも俺としては十分だ。彼氏がいる可能性だってあるし、いや、その線を考えるのはやめよう。辛い。

(オッケーもらえると良いなー)

手紙には告白と、自分の名前と、連絡先だけが書いてある。下手すれば怪しいその手紙を、どうか彼女に信じてもらえますように。

「いらっしゃいませー!」

コンビニには今日も、元気な彼の声が響き渡る。





仕事が終わった彼の携帯を、誰かの着信が小さく揺らした。
――――――――――――
大変遅くなってしまい申し訳ございません。

とにかく赤也が可愛い話、ということだったので可愛さメインで押してみました。いかがでしょう……!
赤也は可愛いですよね。癒されます。

リクエストありがとうございました!

2015/3/6 repiero (No,148)


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